イエスマンで閣僚を固めるトランプ次期大統領、対中関税60%の先に待ち受ける新たなリスク
■ 米国の高関税が誘発する人民元の切り下げ ──米国は物価高騰に悩まされていますが、関税戦争は物価高騰のリスクです。 熊野:企業業績の落ち込みで景気は悪化する一方、インフレだけが進行するので、スタグフレーションに近い状況になっていくと思います。その可能性は強い。 でも、米国民が「いやいや、トランプがいい落としどころを見つけて、うまく話をまとめてくれるよ」と考えている印象があります。まるでトランプ氏の政治的レトリックにはまっています。 関税や物価高騰をめぐる議論が、ほとんど陰謀論のような不確かさの中に巻き込まれているように感じています。被害自体が認識されない世界に引きずり込まれていく恐ろしさがあります。 ──円安が続いていますが、為替レートはどうなっていくと思われますか? 熊野:米国が中国からの輸入品に関税をかけていくと、輸出で不利になる中国は金利操作を通してレートを調整し、人民元安に誘導しようとする可能性があります。これは、今の中国のバブル崩壊に対しても整合性がある。 つまり、トランプ関税に対して中国は通貨の切り下げで対抗する。そうすると、相対的に人民元が安くなりドル高になる。同様に、ヨーロッパもトランプ関税で景気が悪くなれば、金融緩和をしていく可能性があります。 円とドルの関係ばかりではなく、ドルだけが世界的に高くなり、日本にも米国のインフレが波及してくるかもしれません。ドルが原因になって円安が進み、日本の輸入物価が高くなり、ますます日本が食料品や原油を買う時に高くなるのです。 ──実際に、トランプ関税による物価高騰が見え始めたら、トランプ支持者たちも考え方を変えていくのでしょうか。 熊野:今は共和党が大統領、上院、下院を押さえたトリプルレッドですし、トランプ政権の閣僚人事を見ていると、イエスマンで固めています。トランプ氏の主張が実行しやすく、短期的にはリーダーシップを発揮しやすい状況です。同時に、自分にとってマイナスの声は届きにくくなる、独裁者が失敗に陥りやすい環境です。