なぜ橋本大輝は4人落下の大荒れ種目別鉄棒で37年ぶりの金メダルを獲得することができたのか…知られざる細部の技攻防
「内村もそうだが、すべての基本である車輪の技術が高い。特に車輪での倒立姿勢がいいのだ。その姿勢がいいと真っすぐに遠くへ落ちていくため、遠心力が増し、跳ね返りが強くなり、しっかりとした抜きとあふりにつながる。それができているから、カッシーナ、コバチ、コールマンなどの離れ技に高さと雄大さが出てくる」 橋本の離れ技の高さが演技をまとめるためのプラスの連鎖につながっているという。 「離れ技が高いとギリギリのタイミングになっても鉄棒を持てる幅が出る。遠ければ肘を伸ばす、近ければ肘を引っ込めるなどの修正がしやすい。この日は、鉄棒の持ち直しはなかったが、実は、団体、個人総合では、ほんの少しだけだが、コールマンで持ち直していた。慌てた持ち直しは減点になるが、一瞬の持ち直しは減点にならない。それも高さがあるからこそ成し得る技術である。ここも内村との共通点だ」 そして特筆すべきは、その演技の美しさにある。 「カッシーナ、コールマンなどの離れ技で、鉄棒を持つまでの空間での空中姿勢が美しい。つま先が割れず膝もくっついている。離れ技で肘の曲がりが少ないのも特長だが、これも高さがありタイミングがいいからだ。カッシーナ、コールマンは、前から後ろに引っ張られるような動きになるトカチェフに比べて肘が曲がりやすいのだが、橋本選手は、曲がらない。そこが減点対象になるケースが多いが橋本選手にはそれがない」 初出場の五輪で内村でさえ成し遂げることのできなかった個人2冠をやってのけた。 報道によると橋本自身は「まだ土俵の一段目を上がっただけ。体操のチャンピオンといえば“内村航平”。それくらいにならないと同じ立場ではない」と謙虚に語ったそうだが、見事に世代交代を果たして“新キング”の称号を手にしたと言っていい。 3年後のパリ五輪で個人総合、鉄棒の連覇を果たし、銀に終わった団体でのリベンジ、そして種目別の多種目でのメダルコレクトに成功したとき、名実共に“内村越え”を果たすことになるだろう。 畠田氏は、橋本の“未来”に対して、こんな意見を持つ。 「僕なんかが、ああしろ、こうしろと語るにはおこがましい。本人は現状に満足していないだろうし、何をすべきかを一番わかっているだろう。ただ、これからルールが変わる。技の区別化が厳しくなり、加点のつき方なども変わる方向性のようだが、そこへの対応が必要になってくる。ルール変更により有利になる選手がたまに出てくる。これまでの課題は平行棒とつり輪だったが平行棒はよくなった。つり輪も不得意っていうほどの苦手な種目ではない。体ができあがっていない状況で力技はなかなかできない。成長するなかで体は強くなるし、一気に鍛えて筋肉をつけ過ぎると、あん馬など他競技に影響も出る。何かに特化して強化する必要はないと思う。バランスを考え、今までやってきたことに磨きをかけ、より演技に安定感を持たせてDスコアを上げていけば3年後も優位に立つ。楽しみな日本の宝だと思う」
そして「女子も含めて今大会で日本の体操界が獲得した4つのメダルは、ジュニアの育成にも刺激を与える、いい流れを作ってくれたと思う。ジュニア世代に勢いが出ると日本の体操界の選手層が厚くなる」と、今大会を総括した。 橋本も3年後を見据えてこう誓った。 「今大会を通じて成長したと思う。追われる立場だが、世界チャンピオンとして譲らず、気持ちもおごらず、自分の理想の演技をつきつめてまた世界一を取りたい」 その爽やかな笑顔と決意こそ金メダリストにふさわしかった。