なぜ橋本大輝は4人落下の大荒れ種目別鉄棒で37年ぶりの金メダルを獲得することができたのか…知られざる細部の技攻防
「自分はなんかいつも通りを出すだけになってしまったので。その結果、今日を通しきれて金メダルを獲得できたのは凄く大きな経験になった。いつも通りを出すために準備してきて、今回それがうまくいって、この舞台でミス無くできたことは大きい」 予選、団体、個人種目と同じ演技構成で勝った。その「いつも通り」をノーミスで実行して頂点に立ったことを橋本は誇らしげだった。 橋本とスルビッチのDスコアは同じ6.500。Eスコアが0.166差の違いを生み出したことになるが、その差はどこにあったのか。 バルセロナ、アトランタ五輪の2大会に出場、バルセロナでは団体銅メダルを獲得している日体大の体操競技部副部長で、今大会で女子の体操五輪代表だった畠田瞳の父である畠田好章がこう解説した。 「橋本選手もスルビッチもお互いにいい実施だった。スルビッチのシートトカチェフからの4連続の離れ技は独創的で、国際舞台での名前と確実性があるため、優勝争いは、この2人になると思っていた。得点差のうち0.1の差は着地の差。スルビッチは、ほんのわずかだがバランスを崩したが、橋本は狙いにいって決めた」 橋本が意識した着地で「0.1」の差を生み、さらにD難度「アドラー1/2ひねり倒立」とE難度「アドラー1回ひねり両逆手倒立」の車輪系の技で微妙な差が生まれたという。 「2人ともにアドラーハーフとアドラーの1回ひねりを入れたが、どちらもそれほどはよくなかった。回転が戻らないように倒立を安全な位置に持っていくとEスコアが減点される。特にひねって持つところが難しく、どれだけ真っすぐ倒立できているかの角度によって減点の点数が変わってくる。橋本の方がスルビッチに比べて若干だが、その角度が真っすぐな倒立に近かった。ここでの減点の差が積み重なったと考えられる。もう少し得点差が出てもよかったかもしれない」 細部の丁寧な技術の部分で橋本が上回ったのだ。 その上で畠田氏は金メダルの理由をこう分析した。 「団体で銀、個人総合で金を取り演技に自信と余裕があった。構成を変えなかった橋本選手は予選から4回目の演技で、スルビッチは2回目。その本番での経験の差が出た。練習の100回よりも試合の1回と言われるが、試合でいい演技ができたときに一流選手は、そのすべてが体に残る。スルビッチが15点に乗っていない状況で自分の演技に集中できたのだと思う。五輪で成長したのだ。橋本選手には全体的なリズムがあり見ていて失敗する感じがなく、審判にも安心感を植え付ける。その状況で着地を決めれば、得点は出るし負けようがない。実力は紙一重だったが、内容は橋本選手の圧倒だった」 では、橋本の鉄棒の何がどう凄いのか。畠田氏の説明によると“キング”内村航平と3つの共通点があるという。