井之脇 海×上川周作。二人を脅かす日常に潜む「穴」ってなんだ?
井之脇 海さん(以下、井之脇) 自分を守るための穴が、結局は自分を閉じ込める穴になっているんですよね。 上川 だからこそ、この役は、自分が今大切にしているものや、自分が本来持っている感覚をきちんと見つめながら演じたいと思いました。 井之脇 僕は、この物語は遠い世界の話のようでいて、実は他人ごとじゃない話だなと感じました。というのも、僕は今マンションに住んでいて、最近、お隣の人が引っ越して新しい人が入ってきたんですけど、未だにどんな人が住んでいるのかわからないんです。 なんなら自分が外に出ようとした時に、隣の人が出入りする物音がしたら、出ないで待ってしまう自分がいたりして。もしかしたら隣の人はとんでもなく悪い人かもしれないし……というのは冗談で(笑)、恐らくいい人だと思うんですよ。でも、その姿に怯えてる。 家だけでなく、たとえば1回しか会ったことのない人との通信手段がスマホの中にいくつも存在している中で、人を信じられるかどうかとか、その人の本質を見るということを、最近つい忘れがちになっている気がしたんです。だからこのホンを読んだ時に、見てくれる人にも、決して遠い世界の話ではないものとして感じてもらえるんじゃないかと思いました。 上川 玄関ドアから出られないという話、僕もすごく共感できます。そこで勇気を出して歩み寄る自分も、やっぱり怖いと感じる自分も受け入れ合える世界になったらいいなと、今お話を聞きながら思いました。 井之脇 それと、穴というのが物理的な穴なのか、実は心の中にあいている穴なのか? というのも興味深いところで。いろんな面を見せていける、とても面白い作品だなと感じます。
SNSなど見えない人が発する情報で不安になった時には
── 思い込みを助長することもある「穴」から連想するものの一つに、インターネットやSNSがあると思います。そこには不確かな情報や誰のものかもわからない誹謗中傷などの言葉も氾濫しています。お二人はそれらのネットやSNSの情報とはどういう付き合い方をしていますか? 井之脇 昔も今も、僕個人のエゴサはほぼしませんが、作品についてや、役がどう見られているかなどは、ネット上の意見もここ1年ぐらいは読んでいます。ありがたいことに、そんなに悪い意見はないのですが、いい意見こそ鵜呑みにしてはいけないなとも思います。僕個人への意見も、いいことだけを拾っていると天狗になっちゃうので。 もちろん、顔の見えない人が発信する情報は信用しすぎてはいけないなと思っていますけど、ただ、ネットでしか手に入らない情報もあると思うので。それを鵜呑みにしないで、必ず何か別の資料を読んだり調べたりして、自分で整合性をつけて情報を選択していくというのは大事ですよね。 上川 確かに……。以前の僕は、恐怖心をあおられるような情報を目にすると、とっさに「怖い」と思ってしまう自分がいて、それについての対策がしきれていないところがあったんです。でも今は、不安になった時、兄貴に話すことで、不確かな情報を目にしても、頭を冷やして冷静に向き合えるようになってきました。 信頼できる相手に「こういうことが不安なんだ」と話すと、「ああ、大丈夫やで」と言ってくれたり、気を付けるべきことを教えてくれたりする。見えない人が発する情報で不安になったら、見える人とコミュニケーションをとって、すり合わせができると安心できるんだなと感じました。