井之脇 海×上川周作。二人を脅かす日常に潜む「穴」ってなんだ?
── 対話もネット上で完結する時代だからこそ、見える相手の重要性が増していますが、コロナ以降は特に、仕事もリモートが多くなるなど、リアルな人間関係が減っている気がします。お二人は仕事やプライベートでリアルな人間関係の大切さを感じることはありますか? 井之脇 この(俳優という)仕事はみんなで作品を作るものですし、コミュニケーションはとても大切だと思うんです。特に、舞台を作るとなると、全部署の方全員にきちんと心を開けないと助けてもらえないですし、自分も助けてあげることができなくなってしまう。なので、僕はいつも、挨拶をはじめ言葉でも、言葉以外でも、コミュニケーションをとれる時間を意図的に作って作品作りをしています。 そして俳優同士も、役柄が敵対する間柄だったりすると、あえて距離を置くという方もいらっしゃると思いますが、僕は、芝居を組み立てるうえでも円滑にコミュニケーションが取れたほうがいいと思うんです。もしも上川さんが違う考えだったら、遠慮なく言ってほしいんですけど……。
自分に「ノー」を言ってくれる人は大切にしている
上川 僕も同感です。コミュニケーションを取らずに自分だけの穴にこもりっぱなしでやっていたら、それこそ周りが見えなくなってしまうので。いいものを一緒に作ることと、芝居の設定は分けて考えたいと思っています。 井之脇 ただ僕の場合、仕事以外の普段の生活では逆なんです。僕は割と誰とでも話せるタイプですけど、ものすごく人を見ます。選ぶと言ったら失礼ですが、自分が心を開ける相手はやはり限られていて、プライベートな普段の生活では、本当に信頼できる人とだけ過ごしていますね。 でも上川さんは、個人的に連絡を取りあった時に、「あ、信頼できる人だ」とすぐに思いました。 上川 ありがとうございます!(笑)
── 何か、信頼に至るポイントみたいなものがご自分の中にあるのでしょうか。 井之脇 言葉にするのは難しいですけど、直観的なもの以外でいえば、自分に「ノー」を言ってくれる人は大切にしています。やはり関係が浅い人だと、それももちろん本心であるとは思うのですが、「いいじゃん、いいじゃん」と言ってくれることが多いですよね。 そんな中、「いや、俺はこう思うよ」と、頭ごなしではなく、僕のことを本当に思って言ってくれる人というのはすごく頼れるなと思います。 上川 それを聞いて思ったんですけど、僕は結構、しょうもないボケを入れたりするタイプで、そこに気づいて絶妙にツッコミを入れてくれる人とは信頼関係が構築されているかもしれないです。ボケって気づかれないとそれまでですし、相手のことがわかっていなかったり、関係に緊張感があるとツッコめない。それができる間柄というのは近しいと感じますし、通じ合う瞬間は気持ちいいです。 ── 今回の舞台では、戦場の緊迫した状況下でも、兵士は夜、穴から見上げる星空に癒され、「自分は本当にこのままでいいのだろうか」と自問します。お二人も、忙しい日常の中で、ふと我に返る時間や場所はありますか? 井之脇 僕の場合、それは山にいる時ですかね。ときとして、自分は仕事や情報や、いろんなしがらみに包まれてしまっているなと思うことがあります。けれど自然の中にいると、そういうものをいったん忘れて、ある種、無になれる。それが僕にとっては山であり、森であり、岩なんです。何万年も前からそこにあるだろうものに触れた時に、本来の自分が現れるような、そういう感覚があります。 上川 僕は、いろいろ考えてしまって眠れない夜は、自分が今、孤独じゃないことや、美味しいごはんを食べられること、こうして眠れることの幸せを、ひとつひとつたぐり寄せて感じています。1日の終わりに大事なものに改めて感謝して、スッキリして寝て、また次の良い1日を迎えられる準備をしようと心がけています。