財界、労組の年金改革案の残念な中身 高所得者の年金カット、支給開始年齢引き上げ、3号制度廃止…
高所得者の年金はカット、専業主婦に多い国民年金の第3号被保険者制度は廃止―。こんな年金改革案が発表された。提言しているのはそれぞれ、関西財界の経営者団体と日本を代表する労働組合の全国中央組織だ。 【写真】定年後、5人に1人は生活苦 国家公務員、準備不足に後悔も
筆者は20年来、年金政策のウォッチを続けてきた。2010年頃までは新聞各紙などがこぞって独自の改革案を発表したものだったが、民主党の年金改革案が失速してからというもの、そうした風景は過去のものとなっていた。今回のように年金改革の提言が相次ぐのは久しぶりだ。大いに期待して目を通したのだが…。いずれも残念な内容だった。(共同通信編集委員=内田泰) ▽「財産権侵害」で提訴されたらアウトか まず、関西経済連合会(関経連)が2024年10月16日に公表した「社会保障を中心とする税財政に関する提言」を見てみよう。具体的な改革項目の筆頭に書かれているのは「高所得者への年金停止」だ。 「年金以外からの所得が一定以上の高齢者を対象とした老齢基礎年金の支給額の逓減あるいは支給の停止」と記されている。「それはいい」とひざを打った方もいらっしゃるかもしれない。でも、ちょっと待ってほしい。 高所得者向けの年金支給カットはカナダで導入されており、「クローバック」と呼ばれる。カナダがクローバックを採用しているのは、給付原資の全てを税で賄う「税方式」で運営されているからだ。
これに対し日本の年金は、保険料を中心とした「社会保険方式」だ。基礎年金については給付費の半分が税で賄われているものの、残りは保険料が主体である。それをクローバックによって強制的にカットするとなると、日本国憲法29条に規定された「財産権」の侵害に当たるかもしれない。仮に国家賠償請求訴訟を起こされた場合、国が勝訴できるかどうか微妙だろう。 日本でも民主党政権時代にクローバックの導入が検討されたことがある。国庫負担(税)の投入を減らしたい財務省の意向があったからだが、当時野党だった自民、公明両党の反対によって政府が撤回した経緯がある。 ▽社会保険方式の日本でクローバック導入のメリットは乏しい そもそも、何らかの改革をするのであれば明確な政策目標が必要だが、クローバックの狙いは国庫負担を削減することだろう。問題は対象となる「高所得者」の所得ラインの線引きだ。 この線引きの水準が高すぎると、国庫負担の削減額が小さすぎて政策目標が達成されない。逆に、十分な国庫負担削減を目指すのであれば中間所得層にまで年金カットが及ぶことになる。この場合、老後の所得保障という年金の役割が不十分になる恐れがある上に、年金制度への不信感を国民に植え付けてしまう。