財界、労組の年金改革案の残念な中身 高所得者の年金カット、支給開始年齢引き上げ、3号制度廃止…
つまり、社会保険方式で運営される日本の年金にクローバックを導入するメリットは乏しいのだ。高所得者対策が必要だと考えるなら、年金課税を強化するのが素直な手段だろう。 クローバックなどという悪手に走らなくても、関経連には自らできることがあるはずだ。 国民年金法20条の2と厚生年金保険法38条の2には「受給権者の申し出による支給停止」が規定されている。要するに、年金受け取りの自主的な返上だ。関経連は加盟企業の65歳以上の役員と役員経験者に対し、年金返上を義務付ければいい。 いずれもかなりの高所得層だろうから、無理な要請とも言えまい。年金返上の制度の利用を申し出た人は残念ながらごくわずかなのが実情だ。関経連の旗振りで普及が進めば、年金財政の健全化に多少は貢献することになるだろう。 ▽支給開始年齢の引き上げは世代間格差の是正に逆行する クローバックのほかにも、関経連は原則65歳となっている支給開始年齢を引き上げるよう提案している。「社会保障給付費の伸びを抑制する仕組みの導入」の項目で「公的年金の支給開始年齢を見直す際の目安(平均余命や現役世代の人口など)の設定」と記されている。平均余命などの目安の設定は、デンマークやオランダで既に導入されているのを参考にしたのだろう。
だが、支給開始年齢の引き上げは日本の仕組みと実はうまくマッチしない。日本の制度には、少子高齢化に応じて年金給付の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」が組み込まれているからだ。 マクロ経済スライドとは、簡単に言えば、現在の年金受給高齢者の受給額をカットして、孫やひ孫など将来世代向けの給付原資として取り置いておく仕組みだ。世代間格差の是正に一役買っている。 このマクロ経済スライドが働いているときに支給開始年齢を引き上げると、現在の高齢者向け年金受給額のカット幅は小さくなって、将来世代の取り分が減ってしまう。関経連会長の松本正義・住友電気工業会長は80歳だが、この提言が実現すると松本会長の年金受給額は今よりも潤う一方、孫世代の受給額は減ることになる。これでは世代間格差の是正に逆行してしまう。 経営者団体には通常、経済学者らが政策ブレーンとして付いているものだが、こんな提言を出す関経連には、ブレーンがいないのだろうかと心配になってしまう。