後期高齢者となった宇崎竜童「物覚えが悪くなったかも」免許更新で認知機能検査を経験
内閣府によると、総人口における後期高齢者の割合は現在14.9%(1,867万人)で、その割合は年々増加し2065年に25.5%に達するという。その増加に応じて、厚労省が75歳以上の医療保険を引き上げることを検討していることが、最近報じられたばかりだ。音楽家の宇崎竜童さんも今年76歳になる後期高齢者の一人。同世代のミュージシャンが次々と引退している中、宇崎竜童さんは老いること、そして“残りの人生”にどう向き合っているのか聞いた。(ジャーナリスト・中村竜太郎/Yahoo!ニュース Voice)
免許更新で「認知機能検査」を経験
――宇崎さんはいまも精力的にステージ活動をされていて、年齢を感じさせません。しかし誰もが老いを迎えます。それをどう捉えていますか。 宇崎竜童: この間、「俺、76歳なんだ」って初めて意識したのが後期高齢者向けの免許更新・認知機能検査を受けたこと。まわりは当然、みんなシニア。つい忘れがちですけど、改めて自分もそうなんだよなあと実感しました。音楽や俳優の仕事の際も、たいがい僕が最年長でまわりはみんなうんと若い。共演者が気をつかって椅子を出してくれるんだけど、「年寄り扱いするなよ」と言っているくらいなんです。で、テストは100点満点中95点でパス。ところが後日交通違反してしまい、もう一度そのテストを受けたら、前回より点数が落ちていた。こんなふうに自分が若ぶっていても、脳はだんだん衰えているんだろうなと思いました。 もともと若い頃から物覚えは良くなかったんですけど、先日ドラマの撮影でワンカットが結構長いシーンがあり、「てにをは」を間違えて3、4回カメラ止めちゃったんです。なんでこんなにちゃんと言えないんだろう。暑さのせいかと、その時は自分を納得させたんですけど、一方で、物覚えが悪くなってるかなという自覚は最近し始めています。 ――“終活”は具体的に考えていますか。 宇崎竜童: 僕と阿木(燿子夫人)には子供がいないものですから、お墓に入っても、誰がお墓の面倒を見るのかという問題があります。海に散骨するとかは自分らしくないし、どこかへ置いとけばいいかなくらいの気分ですね。夫婦で「お墓に入れなくてもいいんじゃないの?」みたいな会話をすることもあります。 ただ僕は、葬儀だけはちゃんとやりたい。棺桶を置いて、どんな顔して死んだのか、たくさんの人に見てほしいんです。音楽関係者の葬儀でも、本葬とは別に偲ぶ会を設けることがありますけど、いやそれより、僕の“死に顔”を見てほしいなっていうのがあるんですよね。ミュージシャン仲間に音を出してもらって、ニューオーリンズの「ジャズ葬」みたく行進はしないまでも、にぎにぎしく音楽を鳴らしてもらいたい。一般の方にも来ていただいて、「死んでも眠っているみたいだね」って思われたい。本当に美しい顔で亡くなられている方を何人も見ているので、あんな“死に顔”になるには、僕の経験上、いい生き方しないとそうならないと感じていたんです。 じゃあ、「いい生き方ってどういうのかな?」というふうに思っていて。いまのところ僕が目指している寿命は100歳なんですが、だとしてもあと24年しかない。その間に何か人のためになることをしたいと考え、まずはライブのたびに寄付金を集めるようになりました。それと僕が死んだあとも70年印税が入ってきますから、財団みたいなものを作って印税を寄付に回せるよう、いまのうちにシステムを作っておこうと考えています。 ――人生の後半になると残りの時間を考えますよね。 宇崎竜童: 実は4月のライブの2週間前、急な腹痛で病院へ行くとすぐに緊急手術することに。小腸憩室炎でした。朝、病院のベッドで目が覚めると、体のあちこちからたくさん管が出ていて、おいおいって。そして、ああ生きてんじゃん、と。1週間の入院で、お医者さんから運動は1か月後とアドバイスされましたが、関係者と相談した結果ぶっつけに近い形で、リハと本番にのぞみました。これが、不思議なことにちゃんと歌えた。しかもいつもよりうまい(笑)。腹式で力を入れて歌えないので、わりと軽く歌ったんですよね。そしたら「宇崎さんいつもよりいいですね」って言われて、たまに入院するのもいいなとその時は思いました(笑)。 ――現在の宇崎さんはすごく元気ですけど、音楽の影響はあるのでしょうか。 宇崎竜童: 音楽をやってるとか、音楽を聞いてるとかってすごく大きいと思います。特に生のステージですね。輝かしいキャリアで人気のある同世代のミュージシャンが次々と引退しているじゃないですか。でも、「いま辞めたらヤバいぞ」と逆に言いたいですね。ステージでは最初はこっち側からエネルギーを飛ばしているんですけど、それを受け止めてお客さんが拍手で返し、声や手拍子で応じてくれると、1000人なら1000人分のエネルギーをその場でもらえる。たしかに2時間集中してやると疲れるということもありますが、実はそれ以上に元気をいただける。だから演奏できるうちは、ミュージシャンやめないほうがいいと思います。 歌がうまい人は特にそうだと思うんですけど、「声が出なくなった」とか「コロナで休んでいたからちょっと怖くてステージ立てない」、そんな相談をされたこともあります。若い頃に出たこの音が出ないとか、キーを下げなきゃとか、これ以上恥かきたくないなって思うのかもしれません。僕はとにかく、肉体労働してないとただのボケボケになっちゃう。そっちの方が心配なんですよね。