「みんなで勝つ」みかん農家の経営戦略 産地の枠を超える活動で売り上げを5倍に
愛媛県宇和島市でかんきつ農園「ニノファーム」を営む二宮新治さん(43)は、みかん農家の3代目で、アパレル業界を経て28歳でUターンしました。異業種の経験を生かし、ホームページやパッケージデザインなどの工夫で販路を個人客に広げ、栽培面積も3倍にしました。産地の底上げを図るため、農業仲間とNPO法人を立ち上げ、かんきつファン向けの「柑橘ソムリエ」というライセンス制度を全国に広めました。産地の枠を超え、「みんなで勝つ」戦略が功を奏し、家業の売り上げも5倍に伸びました。 【写真特集】シミ抜き洗剤も積み木もヒット EC戦略に成功した中小企業
栽培面積を3倍に拡大
宇和海を見下ろす山の斜面に広がるニノファームは、2.5ヘクタールの畑で温州みかんやブラッドオレンジ、ポンカンなど15品種を栽培しています。みかんの収穫量は年間70~80トン。半分をJAに納め、残りは自社サイトを通じて個人客に送っています。 愛媛のみかんは日当たりの良い山の斜面で栽培され、傾斜のおかげで水はけのよい土が糖度を上げるといいます。中でも宇和島市はみかんの多品種栽培が多いのが特徴です。 「南予地方(愛媛県南部)はのんびりした人が多いんです。大勢が短期間で一気に収穫するより、家族で半年かけて少しずつ収穫する多品種栽培が、地域の気質に合ったのでしょう」と二宮さんは言います。 みかんはほとんどの種類が授粉や袋がけといった作業の必要がなく、果物の中でも比較的手間がかからないといいます。だからといって放置しては良いみかんは取れません。 一つの畑からの収穫量を増やすには、肥料はもちろん木の樹齢や木の間隔を踏まえた植栽本数の影響が大きいといいます。さらに農薬の種類や散布方法、摘果や枝の剪定にも工夫が必要です。また、糖度を0.5度上げればみかん1個の価格も上がるといいます。 2008年に家業に入った二宮さんは、家族経営にもかかわらず2024年までに畑の規模を3倍、売り上げを約5倍にまで伸ばしました。
祖父の死をきっかけにUターン
ニノファームのルーツは祖父の代からのみかん農家です。二宮さんは最初、後を継ぐ意思がなく、地元の高校の電子科を卒業後、京都府内で働いていた姉を頼り、小さなアパレル会社で9年ほど働きました。「服が好きだったので飛び込みました」 「何でも挑戦」という社長のもと、二宮さんは企画からデザイン、縫製、販売まで何でもこなします。24歳で店長を任されるなど順風満帆でしたが、どこかで「長くやる仕事ではない」とも感じていたそうです。 祖父が亡くなったのはそのころでした。悲しみに暮れる父の背中を見て、「父が亡くなれば家も畑もなくなってしまう」という思いがわきました。 「当たり前のことなのに、それまで考えてもみませんでした。2人の姉は県外に住んでおり、長男の私が帰らないと何もかも無くなると感じました」 「いずれは宇和島に」とぼんやり思いましたが、それから2年ほどして、会社員としてのキャリアに迷いを感じました。「宇和島で商売をしたい」と、農家を継ぐことにしたのです。 家族はUターンに賛成でしたが、父からは農家を継ぐことを反対されます。自然相手の厳しさを知っているがゆえの思いやりでした。それでも話し合いを重ね、了承を得た二宮さんは2008年、28歳で故郷に戻りました。