「みんなで勝つ」みかん農家の経営戦略 産地の枠を超える活動で売り上げを5倍に
半農半漁からの脱却
二宮さんの住む宇和島市白浜地区の農家の多くは、昔から真珠養殖、ちりめんじゃこやサザエを取るなどの半農半漁で生計を立てていました。祖父も父も半農半漁で、みかん畑が小さくてもやれていたといいます。 しかし、二宮さんは漁業には手を出しませんでした。漁業の場合、同じ地区の知り合い同士で、一つの魚の群れを取り合う可能性もあります。「知り合いともめるのは苦手。一人勝ちより、みんなで勝つのが好きなんです」 「柑橘ソムリエ愛媛」を立ち上げた目的も、みんなで勝つことでした。競争激化で足の引っ張り合いになれば、隣の畑が荒れていても無関心になる恐れもあります。それでは地域のみかん産業が衰退しかねません。 地域の産業が盛り上がれば、将来、みかん栽培に従事したいという子どもたちも増えると、二宮さんは考えています。「ニノファームの経営と同じくらい、地場産業に貢献したい気持ちが強いです」 現在はみかん相場が落ち着いたうえ、温暖化の影響からか特産のちりめんじゃこの漁獲量が減ったことで、半農半漁の多かった白浜地区もみかん栽培に集中する農家が増えているといいます。
農業体験の機会を提供
ニノファームでは10年ほど前から、みかんの収穫や商品の出荷で忙しくなる冬にアルバイト希望者を受け入れています。二宮さんは近所のゲストハウスを借り、アルバイトの宿泊先を用意しました。 大学生のほか、農業体験を希望する社会人も来ており、みかん栽培の技術や考え方を伝えています。 産地や農家とつながりたい人が地元にも遠方にも多く、二宮さんは申し出があれば基本的に受け入れています。それがきっかけで一緒にイベントをしたり、移住につながったりもしています。 県外で開く「宇和島フェア」にも参加し、ワークショップではジュースのテイスティングや生果の食べ比べなどで、多様なみかんに親しんでもらっています。
みかんで故郷を盛り上げる
地域の枠を超えて産地全体をもり立てる二宮さんの活動は、家業の経営にもプラスになっています。 例えば、以前はわずかだったジュースの出荷が、柑橘ソムリエの活動を通じて増えているそうです。こうした取り組みが実り、栽培面積も売り上げも急伸しました。 「海と山に囲まれた故郷で地場産業のみかんに携わり、帰ってきて良かったとしみじみ思います。おこがましいかもしれませんが、みかん産業を通じて地元を盛り上げていきたいです」
ライター・國松珠実