「みんなで勝つ」みかん農家の経営戦略 産地の枠を超える活動で売り上げを5倍に
NPOで「柑橘ソムリエ」を開始
後継ぎ仲間のネットワークを広げた二宮さんは就農から5年ほど経ったころ、産地全体をもり立てることを考え始めます。仕事や技術を覚えて経営も安定し、ふと周囲を見ると、農業に見切りをつける人や耕作放棄地の増加に気づいたのです。 宇和島市によると、温州みかんの栽培事業者は、2015年の1214経営体から、2020年は1006経営体に減っています。 「自分の畑ばかりではなく、宇和島全体を底上げしないと、みかん産業自体がだめになるという危機感を覚えました」 そんなある日、農家仲間や行政関係者らと話す機会があり、松山市でコーヒー店を営む人が「最近は『〇〇ソムリエ』がはやっている。愛媛は『柑橘ソムリエ』が面白いんじゃないか」と口にしたのです。 何げない一言をきっかけに、2015年1月、二宮さんらはNPO法人「柑橘ソムリエ愛媛」を設立しました。メンバーは宇和島の農家や異業種で構成する20人で、現在は二宮さんが理事長を務めます。 柑橘ソムリエ愛媛の目的は、かんきつ類を通じて愛媛の観光や文化、人材交流を広めることです。ミカンジュースが出る蛇口があるマルシェや、学校でかんきつに関するミニ講座などを開いています。 中でもユニークなのは、2020年秋から始めた「柑橘ソムリエライセンス制度」です。 かんきつのおいしさや特徴などを学んでもらうため、独自のガイドラインを作成。学科では、かんきつの分類、品種、流通、生産などの基礎知識をテキストに沿って伝えます。実技では果実やジュースを用いて、目利きや味覚、表現を実践します。 受講者は2日間の講習を受け、試験に合格すれば「柑橘ソムリエ」のライセンスが発行されます。
「ソムリエ」の活動は関東にも
取り組みを始めて5年。2024年9月までに156人の柑橘ソムリエが生まれました。20~40代が多く、職業は農家やバイヤー、加工業などかんきつ関係の従事者が6割を占めます。 例えば、スーパーのバイヤーなら「ソムリエセレクト」というポップを掲げて販売するなどして「柑橘ソムリエ」を活用しています。 2024年11月には第9期の講習会を、かんきつの産地・神奈川県平塚市で開催。これまでの開催地は宇和島をはじめ、鹿児島県や和歌山県などでしたが、今回は初の関東です。9月末に募集を始めたところ、わずか10分で25人の定員に達しました。 「前から関東圏からのライセンス希望者は多かったのですが、いよいよ認知が広まってきました」