「壁ドン」ほんとにきゅんとする?ーー多様な性とジェンダーの表現を模索する、ドラマのつくり手たち #性のギモン
フラットに意見を言い合える現場に 浅田さん
浅田さんが目指すのは、立場にかかわらずフラットに意見を言い合える現場になること、そのための媒介になることだ。 「俳優は、その場で意に沿わない演技や身体の露出をするように言われると、ノーと言うのはなかなか難しいんです。断れば周囲に迷惑がかかることがわかっているからです。もう使ってもらえないんじゃないかと、萎縮する気持ちもあるでしょう」 「例えば、脱ぐか脱がないかがその俳優にとって大きな問題であって、躊躇する気持ちが解消できないのなら、脱ぐべきではないと私は思います。実際に現場にいれば、何が不安なのか、どうしたらサポートできるかを聞きますが、不安が解消されない場合は脱ぐことをすすめません。その方が人生を終えられたあともフィルムは残るので。私は監督ではないから、次の出演作をお約束することはできません。でも、いい演技をすることに力を注いでいれば、チャンスはくると思います。自分が『これだ』と思う作品がめぐってきたときに、納得できる露出度で露出すればいいと思うんです」
一方、演出する側は、インティマシー・コーディネーターが間に入ることによって熱意が伝わらないのではないかとか、演出に制限がかけられるのではないかという疑いを抱く。 「クリエイターとして当然の感情だと思います。そんなときは、俳優の不安を取り除くことでより演技に集中できること、よい作品をつくることが共通目標であることをお伝えすると、安心していただけることが多いです。俳優の同意を得ることが将来的に作品を守るし、ひいてはインティマシー表現自体を守ることになるんです」 「観客として、誰かが搾取された作品を見てしまったことに罪悪感を抱く人はたくさんいると思うんですね。インティマシー・コーディネーターのクレジットが入っていれば安心だと思っていただけるような状況にしていきたい。業界の古い体質を観客の声が変えていくと思っています」
消費されるドラマにはしたくなかった 山田由梨さん
配信ドラマ『17.3 about a sex~私たちのリアル』は、日本初の「性教育ドラマ」だ。2020年にABEMAオリジナルドラマとして製作された。3人の女子高生を中心に、初体験や避妊、性感染症、セルフプレジャー、セクシュアリティーとアウティング、ボディーイメージなど、若者が直面する性の問題を取り上げた。脚本を担当した山田由梨さんはこう語る。 「はじめはこんなに性教育に寄った企画ではなかったんです。単に女子高生の初体験や性についてのドラマをつくりたいという話でした。そのとき、製作の方々に、女子からすると初体験ってそんなにいいものじゃなくて、むしろ怖い思いをしたり、知識が不十分で不安になったりすることも多いんですよという話をしたんです。そこから、正しい知識を得られるドラマにしたほうがいいとか、高校生の傷や不安を描くことが必須だと思うという提案をして、受け入れてもらいました」 山田さんは、女子高生の初体験をセンセーショナルなものとして消費するようなドラマづくりはしたくなかったという。大事にしたのは「誰の視点で描くか」だ。