J1昇格最後の1枠をゲットするのは?超攻撃的サッカーと新スタジアムが武器の“本命”長崎に夏場補強に成功した山形が“対抗”…仙台と岡山は“下剋上昇格”に虎視眈々
シーズン終盤でチームの完成度がさらに増した長崎が本命ならば、対抗馬はクラブ新記録となる9連勝でシーズンを締めくくった山形となるだろう。 折り返し時点の14位から最終的には4位に急浮上。ホームのNDソフトスタジアムでの準決勝開催を勝ち取り、長崎とともに引き分けでも決勝に進める状況を手繰り寄せた渡邉晋監督(51)は、POでも一戦必勝の姿勢を貫くと誓った。 「引き分けでも決勝にいけますが、そこはまったく意識していない。ここまで来られたのは、目の前の試合での勝利だけを考えた結果として9連勝をマークしたからであり、昇格プレーオフもその延長線上にある。その意味でも勝利しか考えていない」 夏場の補強が、苦戦続きだった前半戦からのターニングポイントになった。湘南ベルマーレから加入したFWディサロ燦シルヴァーノが後半戦で8ゴールをあげれば、鹿島アントラーズから加入した、山形県出身のMF土居聖真(32)も5ゴールをマーク。最後の14試合で12勝1分け1敗と、驚異的な巻き返しに成功した。 それでも、序盤に途中就任した昨シーズンも山形を昇格POに導いている渡邉監督は、J1昇格が目前に迫っていた清水に敵地で逆転勝ちした10月20日の第35節後に、昨シーズンからの取り組みが花開いていると強調している。 「もちろん夏場に加入した選手たちの働きは、みなさんが思っているように素晴らしいものがある。ただ、チームの全体の構図としては何も変えていないし、そこに対して選手たちがより早い判断のもとで、ポジショニングの部分で相手よりも速く先手を取れているところが、いまの結果に結びついている最大の要因だと思っている」
岡山とはリーグ戦でホーム、アウェイともに引き分けた。5月の前者では後半アディショナルタイムに、8月の後者ではトップ下で先発デビューした土居の移籍後初ゴールでともに追いついている。リーグ2位の29失点と堅守を誇る岡山への対策を講じていると明かした指揮官は、10シーズンぶりとなるJ1昇格への決意も新たにしている。 「岡山さんの特徴を把握したうえで、それらをトレーニングに落とし込んでいる。われわれがどのように戦うかは、当日の試合を観ていただけたらと思う。いまはスタッフ、サポーターを含めて山形がひとつになっている空気感がある。過去と比較するのは難しいが、われわれの歴史上でもいい状態にあるのは間違いない」 2012シーズンから導入されたJ1昇格POでは、これまでに数多くの波乱が起こってきた。勝者がJ1の16位と対戦した参入PO時代を含めて、J2リーグ戦で3位だったチームが昇格したのは2015シーズンのアビスパ福岡、2017シーズンの名古屋グランパス、そして昨シーズンの東京ヴェルディの3例しかない。 逆に2012シーズンの大分、2014シーズンの山形が6位からの下剋上を果たしている。特に後者はジュビロ磐田との準決勝の後半アディショナルタイムに、攻撃参加したキーパーの山岸範宏が逆転ゴールを決める奇跡を起こして大きな注目を集めた。 昇格POのレギュレーションで、シーズンの順位が下位だった仙台と岡山は、ともに勝たなければ決勝には進めない。それでも、年代別の日本代表を長く率いてきた仙台の森山監督は、一発勝負へ向けて勝機はあると力を込めた。 「警戒しなければいけない選手やチームの特徴が本当に多すぎて……だからこそ、あまり考え過ぎずにハードワークを貫いて、我慢するところは我慢して戦いたい」 準決勝に臨むチームで唯一、J1の経験がない岡山を率いて3シーズン目となる木山隆之監督(52)も、かつて指揮を執った古巣・山形戦へ闘志を高めた。 「勝利をもぎ取るためには、自分たちの得意なプレーを長い時間出せるかどうか。いいプレーをした方が勝つ、という試合になると思っている」 リーグ戦の最終盤で圧倒的な強さを見せた長崎と山形も、約3週間におよぶ最終節以降の試合間隔で、勢いに微妙な変化が生じる可能性もある。12月1日の準決勝から、リーグ戦で上位チームのホームで行われるために、現時点では「未定」となっている同7日の決勝へ。J2が最も熱くなる最後の3試合がいよいよ幕を開ける。 (文責・藤江直人/スポーツライター)