寺地拳四朗が夢見る「軽量級、もうひとりの怪物」とのビッグマッチ
9月28日(土)――。ふたたび三迫ジムをたずねた。 拳四朗は午後5時入り予定。その一時間前に始まるキッズボクシングのクラスで、他のトレーナーと一緒に大勢の子供たち相手に指導する加藤の姿があった。 「まずは基礎をしっかり覚えて、それから応用していくように。みんな『応用』って言葉の意味、わかるかな?」 「はい」と明るい返事をして頷く子、「うーん」という表情で首を傾げる子、ぽかんとした表情の子とリアクションは千差万別。メンバーは小学1年生から中学2年生までで、ボクシングに向ける情熱も様々。それだけに、優しく丁寧に指導しつつ、時に厳しさも必要となるなど、プロ選手に対してとは違った難しさもあるが、ただ加藤は、自身の言葉ひとつで子供たちが困難を乗り越えたり、逞しく成長したりする様をリアルに見られる所にやりがいや魅力を感じていた。 「A級ボクサーやチャンピオンになってからの選手に技術を教える事は、自分自身は、得意とは思っていません。ボクサーとしての心構えを伝えることや、人間的な成長を見守ることの方が、自分は興味があります」 キッズコースの指導は「これからもずっと続けていきたい」との事。プロボクサーのトレーナーとしては「いずれは4回戦など、新人ボクサー専門のトレーナーがしてみたい」と話した。それが、加藤が思い描く未来地図だった。 プロボクサーとして世界の最前線を戦い続ける拳四朗とコンビを組むトレーナーとしては意外な答え。しかしある意味、心技体で言えば「技術」と「体力」は天賦の才能を持つ一方、精神面では不安定な顔も覗かせる拳四朗にとっては、加藤のようなタイプのトレーナーは相性も良く、かつ必要な存在だったのかもしれない。そんな加藤が唯一、拳四朗のトレーナーとして見る夢が、軽量級の世界的なスター、ジェシー・ロドリゲスとの一戦だった。 「いまはまだ『拳四朗とバムが対戦したら面白い試合になるよね』と期待してくれるファンは少ないと思います。フライ級では『あのバムを拳四朗はどう崩すのか』と期待が高まるレベルまで引き上げたい。もっとひろく、拳四朗がボクサーとして評価していただけるようになるためにも、バムとの一戦は実現させたい。 自分の頭の中では結構バムの分析はしていて、拳四朗とは何度も戦っています。相性は決して悪くない。拳四朗の強さは、日本独特のボクシングスタイルを追求できる所、横の動きよりも縦の動きに特化したボクシングです。拳四朗とバムの戦いは、日本スタイルとアメリカスタイルの戦い。横の動き、サイドのステップワークを駆使して攻撃を仕掛けるバムに対して、拳四朗が日本独特のボクシングスタイルと極めることができれば、勝算を見出せると信じています。 世紀の一戦を実現させるためにも、フライ級で絶対的な地位を確立させなければならない。そういう意味でも次戦のロサレス戦は絶対負けられない。でも拳四朗は、ずっと負けられない試合を戦い、乗り越えてきた。いつもと同じ気持ち、変わらない拳四朗で戦って欲しいなと思います。そうすれば結果は自ずとついてくるはずです」 午後5時過ぎ。拳四朗が到着。