寺地拳四朗が夢見る「軽量級、もうひとりの怪物」とのビッグマッチ
当初は遊びの延長で通う子供ばかりだったそうだが、保谷は最初からプロを目指して入門して来たという。デビュー戦となった昨年5月、東日本新人王フェザー級予選は初回にダウンを奪われてしまい、その後挽回したものの判定負け。しかしこの日は最後まで果敢に攻め続け、嬉しいプロ初勝利を判定で飾った。 自身が立ち上げたキッズコース一期生でプロ第一号選手でもある保谷の初勝利は、加藤にとっては拳四朗が世界タイトルを奪還した矢吹戦と同じように感慨深い試合となった。拳四朗のスパーリング相手をつとめた19歳、伊藤も8回TKO勝利を飾り、夢に向かい前進した。 「拳四朗に限らず、選手に対しては技術よりも、人間的な成長を一番に考えます」 「人間的に成長すればボクシングは勝手に強くなりますからね」 ボクシングを通じて、人としても大きく成長して行くに違いない二十歳の若者と向き合い、リングで勝利の喜びを分かち合う加藤の姿を見ていると、三迫ジムで拳四朗と並びインタビューした際の加藤の言葉が思い浮かんだ。 加藤が拳四朗に伝えたい事。それは技術や戦略以上に心の成長。それをあらためて実感した気がした。 ■拳四朗と出会えていなければ、こんな経験は出来ませんでした 拳四朗が加藤と出会い成長したように、加藤もまた拳四朗との出会いが、トレーナーとして成長する大きなきっかけになった。 加藤は、拳四朗が世界初挑戦(2017年5月20日)したガニガン・ロペス戦で初めてセコンドに付き、6度目の防衛戦となったジョナサン・タコニング戦(2019年7月12日)からチーフを任された。今月13日のフライ級転向初戦、クリストファー・ロサレス(ニカラグア)とのWBC王座決定戦はともに戦う16度目の試合。いずれも世界戦という稀な経験を積んでいた。 「世界戦に15度も携われるなど、拳四朗と出会えていなければ、こんな経験は出来ませんでした。見た事のないような景色を見せてもらい、たくさんの事を学ばせてもらっています。例えばバンテージを巻く作業ひとつとっても、海外の凄い選手の陣営から威圧的な態度で言いがかりをつけられるような事があったとしても、堂々と対応出来る自信が持てるようになりました。ルールミーティング、調印式、公開採点の仕組みだったり、世界戦という大きな舞台の中で起きるあらゆる出来事をこれだけたくさん体験出来ている事は貴重な財産です」 ボクサー拳四朗とトレーナー加藤。 いまふたりは新たな課題に向き合っていた。それはある意味、蜜月だった師弟関係を見直す取り組みでもあった。