寺地拳四朗が夢見る「軽量級、もうひとりの怪物」とのビッグマッチ
「最近は自分の指示を減らして、拳四朗の感性を信じるようにしています。拳四朗は『ここで攻めろ!』と指示すればその通り動きます。でも本人は、まだ攻める距離感ではないと感じているかもしれない。例えば相手にプレッシャーをかけられている場面で、自分としては距離をとってまわって欲しい場面であえて指示を出さず判断を任せたら、意外と良いパンチを当てたりもします。指示されなければ、拳四朗自身の感性で、いまが攻めるチャンスと思える場面もあったはずです。でも拳四朗は、『まわれ』と指示すればその通り行動します。 拳四朗は自身の感性を、どこかで抑えてボクシングをしていた部分もあるのではないか。トレーナーである自分が指示を出してその通り動く事で考えなくなってしまい、アイデアも生まれなくなってしまっているのではないか、と考えたりもします。 もちろん指示は最善の判断と思い伝えています。でも、意外と拳四朗の感性を信じた方がうまくいくこともあって、それが最近、より見えて来るようになりました。あれこれ言わず、拳四朗の感覚に任せたほうがうまく行く場面が増えて来た事は、すごく良い状況と捉えています」 加藤の話を横で聞きながら、拳四朗は「どっちが良いかはわかんないですよね。どっちも正解というパターンもあるし」と付け加えた。 確かにどちらが正解かはわからない。「勝つか、負けるか」という結果次第で、正解は不正解にもなり、不正解は正解になったりもする。それが勝負事だからだ。 ただひとつ言える事。それは互いに信頼、尊重しながら試行錯誤を繰り返すふたりはまだまだ成長し、強くなれる、という事。29歳のユーリ阿久井、25歳のトニーという成長著しい王者ふたりにとって、来年1月の誕生日で33歳、「現役生活は長くてもあと2年」と話し、ボクサー人生の集大成に向けて歩み始めた拳四朗は間違いなく大きな壁になるに違いない。そして、拳四朗はさらに大きな夢を見ていた。 ■それでも夢を追いかける理由 昨年大晦日、拳四朗は自身のX(旧Twitter)で「誰とやりたいとかあるけど、それがかなうまで勝ち続けなあかんのよなー!!」と綴った。 「誰」の正体はジェシー・ロドリゲス。スペイン語で爆発を意味する「バム」の愛称で知られる元IBF・WBO世界フライ級統一王者で、現WBC世界スーパーフライ級正規王者だ。 「バムとの試合が一番盛り上がるかなと思って。そういう高い目標があった方がモチベーションも上がるし。バムとの対戦を実現させるためには、フライ級のベルトは絶対取らないといけないですね」と拳四朗。それに対して加藤は「相性は悪い感じはないんですよね。実現すれば勝てると思います」と答えた。 じつは8度防衛した1度目のWBC世界ライトフライ級王者時代、当時同階級だったバムとは「14度目の防衛戦あたりで対戦するかもしれない」とふたりで話していたそうだ。 いまや米老舗ボクシングメディア、『リング誌』のPFPランキングでも常に上位に入り、井上尚弥に次ぐ軽量級きってのスターになったバムとの対戦を実現させるためには高額なファイトマネーの準備も必要だ。ましてバムは現在スーパーフライ級で、しかも24歳という若さ。これからフライ級に転向し、まもなく33歳になる拳四朗が夢を実現させるには時間的な余裕もない。実現は、現実的にはかなり難しいと言わざるを得ない。 拳四朗はそれでも夢を追いかける。バムとの一戦。それは尊敬してやまないパートナー、加藤も見る夢でもあるからだ。 ■もっとひろく、拳四朗がボクサーとして評価してもらいたい