「タンスにあった私の100万円は?」生死の淵からもどった妻の詰問に、夫が思わず泣いた事情とは?
若くして結婚、妻の夏子さんの就職に合わせて転居し、「主夫」として家事や育児に邁進してきた知也さん。ご自身がコツコツ続けてきた発信やサイト運営が軌道にのり、晴れて共働き夫婦となります。 ところがすべてこれからというとき、妻の夏子さんが救急車で運ばれたと仕事中に連絡が入りました。 「脳内出血で、悪くするとこの数日が山場」と医師から告げられ、激しく動揺します。 取材者プロフィール 知也さん(仮名):現在35歳。若くして結婚。1児の父。 夏子さん(仮名):大学の同級生、知也さんと結婚。大学に勤務していたが、32歳のとき突然倒れてしまう。
覚悟の父子写真。今でも消せずにいます
「娘を保育園に迎えに行き、また病院に戻る前に、コンビニの駐車場に車を止めました。嘘をついても、5歳では異変が起きたことは察するでしょう。万が一の時は、今夜が永遠の別れになります。言わないわけにはいかないと思いました。 『お母さん、頭の中で血がでちゃってね、病院にいるんだよ。もしかすると、今夜死んでしまうかもしれないんだ。だから今から会いに行って、応援しよう』 そこでおにぎりを買って食べて、なぜか2人で写真を撮りました。これからは父子でやっていかなきゃならないかもしれない。心細いけど、決意を残しておきたかったのかな? よく説明がつきませんね。記憶もあいまいです。ショックと動揺で、娘の前では平静を装っていましたが内心はまったく平常じゃありませんでした」 知也さんは、妻の夏子さんが突然倒れた日のことを思い出し、声を詰まらせました。まだ5歳のお嬢さんとなると、その存在が大きな心の支えでもあり、同時に保育園のことや生活をどのように看病と合わせてマネジメントするか考えなくてはなりません。 配偶者の突然の病気は、精神的なショックとともに、現実の日常と看病、育児、仕事、手続きなどが一気に押し寄せるのだと改めて感じました。知也さんは育児の多くを担った経験があり、おおむね対応することができましたが、「保育園に行くときの持ち物は?」「銀行手続きや保険証、印鑑、月ごとに振り込むお金は?」などと困ることがないように、日頃から夫婦間で情報が共有されているのが理想だと感じました。 夏子さんはそのまましばらく意識が戻りませんでした。医師が「脳出血は止まったようだ」と告げたのは数日後。その後、ようやく目が覚めても数週間は酩酊したような、うつろな状態が続きました。 そして意識がはっきりして判明したのは、右半身麻痺という過酷な現実でした。
佐野 倫子