90年代に「再発見」された「日本の70年代フォーク」たち…曽我部恵一が明かす、その「特別な魅力」
眼の前の景色と結びついてしまうことの奇跡
――それと、「空気を震わせたその音を録る」という録音芸術の原点に関わる視点からも、ベルウッドのサウンドにはやはり特別なものが宿っている気がします。 曽我部:おっしゃるとおりですね。生音の録り方もそうだし、コンプのかけ方も、ようやく自分たち思い描いていた音を作れるようになったという喜びを感じるというか。結局は今のレコーディングの現場でも、この時代のドラムとか楽器の音が指針になっていますしね。マイク、卓、録音環境の持つ響きという部分で、きっと一番いい瞬間が70年代前半だったんじゃないかなと思います。 ――並み居るスタジオ作はもちろん、「春一番」や「ホーボーズ・コンサート」のライブ盤を含めて、なんというか、「あの時あの瞬間、たしかにこの音が鳴っていた」という実感が、グワッと身体に迫ってくる感覚があります。 曽我部:そう。それが現在の自分の眼の前の景色と結びついてしまうことの奇跡ですよね。『HOSONO HOUSE』なんて、その最もたるものだと思います。当時のミュージシャンが抱いていたであろう心象風景が、時間と距離を超えて共有されてしまうって、改めて考えてみてもやっぱりすごいことだと思います。 ――今回のストリーミング解禁をきっかけにベルウッドのカタログに触れるリスナーも数多いと思うんですが、是非そういう感動を味わってほしいですね。 曽我部:はい。僕らの世代はレコードという形で触れましたが、それが配信だったとしても何か価値が目減りするっていうことはないと思うんです。たまたま出会ったときがその作品を聴く一番いいタイミングだと思うし、フィジカルじゃなかったら作品の魅力が落ちるのかといったらそんなことは一切ない。だから、自分の環境で思い思いにじっくり聴いてもらえればなと思います。なにせ、僕が『風街ろまん』を聴いて一番心に響いたのは、彼女が運転する軽自動車の安いカーステでしたから(笑)。 PLAY LIST 曽我部恵一セレクト: 日本のフォーク・ロックの世界を堪能する”ベルウッド・レコード” 1.それはぼくぢゃないよ/大瀧詠一(『大瀧詠一』収録) 2.大道芸人/あがた森魚(『乙女の儚夢』収録) 3.とめ子ちゃん/ごまのはえ(『春一番コンサート・ライブ!』収録) 4.塀の上で/はちみつぱい(『センチメンタル通り』収録) 5.紫陽花/南正人(『南正人ファースト』収録) 6.プカプカ/西岡恭蔵(『ディランにて』収録) 7.犬/友川かずき(『桜の国の散る中を』収録) 8.負ける時もあるだろう/三上寛(『負ける時もあるだろう』収録) 9.僕の倖せ/はちみつぱい(『センチメンタル通り』収録) 10.東京ワッショイ/遠藤賢司(『東京ワッショイ』収録) 11.踊ろよベイビー/遠藤賢司(『春一番ライブ'74』収録) 12.あしたはきっと/いとうたかお(『いとうたかお』収録) 13.鎮痛剤/高田渡(『系図』収録) 14.恋は桃色/細野晴臣(『HOSONO HOUSE』収録) 15.氷雨月のスケッチ/はっぴいえんど(『HAPPY END』収録 SOUND FUJIの連載『 Unpacking the Past 』"J-FUSION"を掘り下げた第1回はこちらから。 曽我部恵一 (そかべけいいち) 1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。 '90年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト/ギタリストとして活動を始める。 1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。'70年代の日本のフォーク/ロックを'90年代のスタイルで解釈・再構築したまったく新しいサウンドは、聴く者に強烈な印象をあたえた。 2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル「ギター」でソロデビュー。 2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント/DIYを基軸とした活動を開始する。 以後、サニーデイ・サービス/ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続ける。 http://www.sokabekeiichi.com 柴崎祐二(しばさきゆうじ) 1983年、埼玉県生まれ。評論家/音楽ディレクター。2006年よりレコード業界にてプロモーションや制作に携わり、多くのアーティストのA&Rを務める。単著に『ポップミュージックはリバイバルをくりかえす 「最文脈化」の音楽受容史』(イースト・プレス 2023年)、『ミュージック・ゴーズ・オン~最新音楽生活考』(ミュージック・マガジン、2021年)、編著書に『シティポップとは何か』(河出書房新社、2022年)等がある。
柴崎 祐二