4キャリア8社が災害時に“呉越同舟”の協定 25年度末の事業者間ローミングはどうなる?
「アセットの共有」「船舶」「固定との連携強化」――進める3つの取り組み
新たな枠組みでは、8社がどのように協力していくのか。NTTの災害対策室 室長を務める森田公剛氏は、この協定を「アセットを自社に限るのではなく、通信事業者全体が1つの企業として取り組む」仕組みだと語る。現状で決まっていることは、主に3つある。1つ目がアセットの共同利用、2つ目が船舶の共同利用、3つ目がモバイル通信事業者と固定通信事業者の連携強化だ。 1つ目のアセットの共同利用とは、ビルや土地、車両など、各社が持つ資産を、8社で共用していくことを指す。NTTグループからは、通信の拠点に活用している建物やその周囲の土地などを提供することを想定しているという。「NTTの通信ビルに空きスペースがあればぜひ皆さんに活用していただきたい。復旧活動の拠点にしたり、復旧機材や資材の置き場にも活用したりできる」(同)というのが、その目的だ。 例えば、「固定通信のビルはNTT東西合わせて7000ぐらいある」(同)と数が多い。「実際には人が入れない、機械しか置いていないビルが大半だが、その周辺にも敷地があって、駐車スペースなどを資材置き場として活用できる」(同)。日本各地に光回線を張り巡らせているNTTだからこそ、提供できる資産といえる。これだけだとNTTグループからの持ち出しが多いようにも見えるが、「お前のところは少ないというような話は一切していない。各社のアセットを包み隠さず出していく」(同)方向で議論が進められているという。 実際、キャリアに参入してからまだ日が浅い楽天モバイルからも車両や発電機などに給油するための拠点が提供される。また、楽天モバイルは、親会社である楽天グループを通じて「楽天市場や楽天トラベルといったアセットを提供することにも、前向きに取り組んでいきたい」(楽天モバイル BCP管理本部 本部長 磯部直志氏)と、通信以外の分野でも協力する姿勢を示す。 2点目の船舶の活用は、先に挙げた能登半島地震でNTTとKDDIが協力した取り組みを拡大することを意味する。NTT、KDDIはともに海底ケーブルを敷設するためなどに使用する船舶を保有している。ここに基地局を積み、海上から一時的に地上をエリア化することで、基地局が倒壊するなどした場所を応急復旧できる。能登半島地震では、物資が運びづらかった石川県輪島市でこの船上基地局が活躍した。 「その取り組みを広げ、ソフトバンクや楽天モバイルに一緒に船に乗っていただき、被災地の通信を復旧するというのがこの施策」(森田氏)になる。文字通り、呉越同舟を可能にしていく取り組みといえる。船があったからといってすぐに船上で活動できるようになるわけではないが、ソフトバンクや楽天モバイルも含めた形で「訓練を実現できるよう、日程などの調整をしている」(同)。海に囲まれた日本では、船上基地局が活躍する場面は多いだけに、早期の対応を期待したい。 3つ目のモバイルと固定の連携強化も、災害時には欠かせない要素といえる。モバイルネットワークといっても、基地局と端末の間以外は、そのほとんどが有線でつながれているからだ。その多くは、NTT東西が保有する。能登半島地震でも、この通信ケーブルが物理的に切断されたことで基地局から先がつながらなくなってしまうケースが多々あった。ネットワーク構成上、「電波を出すアンテナから、各社の機器を置いている通信ビルまでは固定通信になる」(同)というわけだ。 そのため、災害からの復旧時にはモバイル事業者と固定通信事業者の連携が欠かせなくなる。その「窓口を整理し、どんな情報を災害時に共有すべきかの認識を改めて合わせた」(同)。また、能登半島地震では「どこが故障しているかの特定に、非常に苦労した」反省を踏まえ、将来的にはリモートで検査し、早期にケーブルの寸断箇所を特定する技術の導入にも取り組んでいくという。