井上尚弥が左ボディで全米震撼の3回TKO勝利…視察したドネアとカシメロはどう見たのか…そして怪物が熱望する相手は
実力を見極め、パンチを見切った井上は、2ラウンドに入るとノーガードでプレッシャーをかけ、反撃を受けても、ステップバックですべてのパンチを外しながら追い込み最初の見せ場を作った。右ストレーから、横殴りの左のボディのコンビネーションブロー。ダスマリナスは、顔をしかめてガードを下げた。そのあとのワンツーから左フックはガードの上だったが、あまりのボディのダメージにダスマリナスは立っていられなくなった。膝から崩れ右手で脇腹をおさえた。最初のダウンである。頭をかすっただけの左のカウンターの残像が、恐怖と共にインプットされ、ボディへの注意が不足していた。そのスキを井上が冷静に狙ったのである。いや計算しスキを作ったのだ。 「ボディでも顔でもどちらでも倒せる準備をしてきた。足を使い始めたので、上はちょっと的が絞りつらい印象があった。その段階でボディに切り替えた」 クレバーな井上ゆえの理詰めのTKO勝利である。 メジャー団体の世界挑戦経験のないダスマリナスに格の違いを見せつけた。ほとんど非のつけようのない試合だったにもかかわらず自己採点は「80点」。「足の運びが今一だった」という。 井上が求めている先がある。 「今回は、ダスマリナスうんぬんじゃなく、ラスベガスの期待感とドネア、カシメロが見に来ている中で、どう自分を出しきれるかが自分の中での課題だった。このくらいの試合をしないとアピールできなかった」 葛藤の中のTKO勝利だったことを明かした。 リングサイドには、WBCのベルトを持つドネアとWBO王者のカシメロが座っていた。当初、カシメロは8月14日(日本時間15日)にWBA世界同級正規王者のギジェルモ・リゴンドー(41、キューバ)と統一戦を戦う予定だったが、対戦相手が、リゴンドーからドネアに差し代わり、WBOとWBCの統一戦が行われることが、この試合直前に電撃的に決定していた。もちろん井上戦を見据えてのマッチメイクの変更である。 試合後、中継したESPNの司会者から「ドネア対カシメロ戦の勝者と対戦したいか?」と聞かれると「もちろん」と即答した。 「勝ったことの嬉しさもあるが、その後、ドネア、カシメロの勝者と戦えることの嬉しさがなによりです」 司会者から「どちらを応援したいか」と暗にどちらと対戦したいかと質問されると「よりドラマチックなのはドネア2ですね」と答えた。 2019年11月にさいたまスーパーアリナーで行われたWBSS決勝戦で井上はドネアに判定勝利した。井上は11ラウンドに左ボディでダウンを奪ったが、10カウントを聞かせることはできず、序盤にドネアの“伝家の宝刀”の左フックを受けて右目の眼窩底骨折も負わされた。ドネアは、それ以来の再起戦となった5月29日のタイトル戦で、弟の拓真を破ってWBC世界同級ベルトを統一していたノルディーヌ・ウバーリ(仏)から左フックで2度ダウンを奪い新王者となり、井上への再戦の資格を得た。もし5階級制覇王者のドネアが、カシメロに勝てば“完全決着”へリマッチのストーリーが出来上がる。