息子よ、クヨクヨせよ――佐藤二朗が父親として伝えたいこと
6月16日は「父の日」。一児の父である俳優の佐藤二朗さんは、子どもとの時間をかけがえのないものとし、日頃から照れることなく「愛してる」と口にしている。その愛情表現は200万人のXフォロワーから支持され、多くの共感を呼んでいる。佐藤さんに親子のコミュニケーション、子どもへ伝えたいメッセージを聞いた。(ジャーナリスト・中村竜太郎/Yahoo!ニュース Voice)
妻や息子に「愛してる」とつぶやくのは、後悔したくないから
――Xでの奥さんや息子さん(ひとり息子)への愛ある“つぶやき”が、「家族の仲がいい」と反響を呼んでいます。 佐藤二朗: たぶん「照れる」という回路が切れているんですね。家族を愛しているのを自慢したいわけでもなく、だけど酔っ払うとつぶやいてしまう。妻に言われるのは「のろけツイートをすると、みんな温かいから『ほっこりしました』って書いてくださるけど、絶対『けっ!』って思ってる人いるぞ」と。俺、まったく同感なんですよ。もしそんな、妻に「愛してるよ」とつぶやいているおっさんがいたら、「けっ!」って思うもん。「なに言っちゃってるんだ、こいつ」って(笑)。 ――でも、それをあえて書くのはどうしてですか。 佐藤二朗: ただシンプルに、言いたいから言っているんでしょうね。自分の素直な気持ちを伝えたいという願望が強いのかも。 もうひとつは、後悔したくないからかな。いつかは別れがきて、そのときに妻にも後悔してほしくないし、俺も後悔したくない。別れがきたときにもっと「愛してる」って言っときゃよかった、って絶対なる。つぶやきはSNSに残るじゃないですか。備忘録として書いている部分もあります。で、息子はまだ子どもですけど20歳、30歳になったときに「こんなに親父は俺のこと愛してくれてたんだ」ってあとで思うとか、そういうようなことですかね。いやでもごめん、それもあとづけかな。つぶやきたいからつぶやいているだけです。
息子には、人の幸せをちゃんと喜べる大人になってもらいたい
――Xに投稿した息子さんへのメッセージが、バズったこともありました。 佐藤二朗: 以前こんなツイートをしたんです。 「一流大学?もちろん入れた方がいい。一流企業?もちろん入れた方がいい。ただ息子よ。父いま酔ってる。酔ってるが言いたい。人の不幸をちゃんと悲しむ。人の幸せをちゃんと喜ぶ。そっちの方が、はるかに、はるかに尊い。きれいごとか。きれいごとかもしれんが、酔ってる父は、わりと、それを断言したい」 これがニュースになり、びっくりするほどの反響がありました。発言の背景には、僕が新人時代に雲の上の存在だった7歳年上の劇団の先輩、久松信美(のぶよし・俳優)さんとのエピソードがありました。僕が運よくドラマや映画に出てなんとか食えるようになった35歳ぐらいかな、久松さんと電車で偶然出会ったんですけど、「おお、二朗!」って昔と変わらぬ笑顔を向けてくれ、車内で盛り上がった。すると男子大学生が「佐藤二朗さんですよね」って近づいてきて、「握手してください」って言われてそうしたんです。そのとき恐る恐る久松さんの顔を見たら、「二朗~、お前、売れやがって、この野郎!」って満面の笑みで言ってくれた。もしも立場が逆だったら、嫉妬とかやっかみとかあって、久松さんみたいな素敵な笑顏はできないと僕は思いました。お酒飲みながらそのときのことをふと思い出して、あのツイートをしたわけなんです。 ――転じて、あの“つぶやき”は息子さんへの父親としての願いだったと。 佐藤二朗: はい。息子には、人の幸せをちゃんと喜ぶ。人の不幸せをちゃんと悲しむ。そういう大人になってほしいなと思いました。 それってすごく難しいですよ。僕はできませんよ、はっきり言って。最近55歳になってようやく人と比べなくていいと思えるようになってきましたけど、やっかみも出るし、人の幸せを素直に喜べない自分もいる。でもやっぱり思うんですよね、久松さんみたいな大人になりたいな。優しい人になりたいな。きれいごとに聞こえるかもしれませんけど、そうありたいなという憧れは僕の中にずっとあります。だから息子にはそうなってほしい。 ――Xで頻繁に息子さんとのやり取りを書かれていますが、子どもの成長を感じるのはどんなときですか? 佐藤二朗: 主に身体的なことで感じますね。身長が僕の肩まで来た。手の大きさが僕とさほど変わらなくなった。キャッチボールで息子の投げたボールを受けた自分の手が痛かった。腕相撲で負けそうになった。指相撲は実際に負けた(笑)。オセロも初めて負けた。歴史好きの息子に日本や世界の歴史の知識を教えてもらっている。すべて、とてもうれしいと感じます。それに僕は「精神年齢6歳」と自覚していますから、ひょっとすると息子は僕を追い越してしまっているのかも(笑)。 ――すごくいい親子関係ですね。 佐藤二朗: 42歳のときにやっと授かった子どもですから、手放しでかわいいと思ってしまいます。Xにも酔っ払って書いてしまったんですけど、息子に「愛してるよ」と言ったとき、ぶっきらぼうに「知ってるよ」とか「オッケー」と返してくれる。それがいま生きていて一番うれしい(笑)。 息子に伝えたいことはたくさんあるんです。つらいとか悔しいとか落ち込んだとき、そのあとにどう踏ん張るか、ヤケクソにならずにどう前を向けるかそれが大事、とか。つらいことが起きたら絶好の機会が来たと思えばいい、とか。いまの彼にはわからないかもしれないけど、時折りそんなことを話します。