息子よ、クヨクヨせよ――佐藤二朗が父親として伝えたいこと
若い人に伝えたいのは「クヨクヨせよ」
――佐藤二朗さんは若いファンも多いですけど、息子さんを含め、若い人へメッセージはありますか。 佐藤二朗: 若い人に講釈たれるほど立派な生き方をまったくしてきていないので、強いて言うならと前置きすると、「クヨクヨせよ」です。 鍼灸の鍼(はり)ってありますよね。鍼(はり)がなぜ肩こりや腰痛に効くのかというと、傷をつけるからだと。その傷を補おうと思って血流がよくなる。その結果、肩こりや腰痛が治る。この話が僕は結構好きで、だから傷って一見ネガティブだけど、それによってよくなることがあるっていう考えは、息子にも伝えるようにしています。かといってネガティブなことが起きると、落ち込みますけどね。 けど、落ち込むことがないと「やったー!」ってならない。いいことばっかだと「おー!」ってならない。休みばっかだと、休みがありがたくない。すごく忙しいと、たまにある休みがありがたい。あきらかな絶望はあると思うけど、そうじゃない場合はクヨクヨしていることに遠慮しなくていい。クヨクヨしていいんだと。過去もいまもずっとクヨクヨして生きている僕から言えることは、まさにそれですね。 ――二朗さんらしい言葉ですね。それは息子さんにも伝わっているんでしょうか。 佐藤二朗: 実は最近、いまの妻とボロアパートに暮らしていた頃通っていた銭湯に息子を連れて行きました。その当時は「本当に俳優になれるのか」という不安でいっぱいの暗黒時代。銭湯の小さな露天風呂に息子と肩寄せ合って浸かり、「お父さんはここで空を見上げながら、なにくそ!と思っていた」と思い入れたっぷりに話しましたが、ちょっと迷惑そうでした(笑)。でも小さな空を見て、心の中で精一杯息子に語りかけました。 「クヨクヨしてもいい。そしてうまくいかないことばかりでも、前を向いて、空を見上げて生きなさい」。まあこれも、父ちゃんの一方的な“つぶやき”なんですけどね(笑)。 ----- 佐藤二朗 1969年、愛知県出身。1996年、演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げ。作・出演を担当し俳優活動を開始。幅広い役柄をこなす俳優として映画やドラマに多数出演している。現在は、6月7日(金)から全国公開している映画「あんのこと」に出演中。