「依存症は回復できる病気です」81歳・アルコール依存症経験者の執念がつくる“脱強制”の回復プログラム #病とともに
「依存症は恥」を変える
YRCは、Y-ARANが運営するリカバリーコミュニティーセンターだ。 施設は、JR根岸駅から徒歩10分ほどの住宅街にある。一番の特徴は、「リカバリーサポーター」というボランティアの存在だ。サポーターは、それぞれが多様な回復のプログラムを提供している。認知行動療法、園芸、瞑想、アートセラピー……。 YRCの源流は、2000年頃に始まったアメリカの新しいリカバリーコミュニティー運動だ。回復の方法やスタイルはたくさんあり、どんな方法による回復であってもよい。そこが既存の回復施設と違う。YRCはこの理念に立って、たくさんのボランティア(リカバリーサポーター)を通じて多種多様なプログラムを提供する。依存症の当事者は、さまざまな回復経験を持つリカバリーサポーターと触れ合い、回復に導かれる。回復の“施設”というより回復の“コミュニティー”というべき存在であり、YRCは現在、日本で唯一のリカバリーコミュニティーセンターとなっている。
「依存症者は意志が弱い」という偏見
依存症は長らく「否認の病」と言われてきた。 飲酒やギャンブルなどを自分の意志でやめることができなくなると、当事者はそれを恥ずかしいと思い、周囲に隠すようになる。背景には「依存症者は意志が弱い」「だらしない」「人間のクズ」といった偏見がある。その結果、早期発見と治療が困難になり、重症化していく人が多くなる。 城間さんは言う。 「社会に蔓延している依存症への誤解や偏見をなくして、回復しやすい社会をつくる。それが一番の目標です」 実際に依存症を克服した多くの人がサポーターとしてYRCに関わっているのも、回復方法の多様さを社会に知らせ、「依存症は本当に回復するんだ」という意識を社会に浸透させたいからだ。
消えない心の傷をギャンブルで紛らわす
ある日のYRCでは、城間さんやスタッフも加わり、さまざまな依存症の人たちがテーブルを囲んでいた。そこに20代のナギサさん(仮名)がいた。 ナギサさんはアダルトチルドレンだ。幼少期の親の行動や家庭環境などにより、精神に深い傷を負ったまま大人になった。父から受けた虐待は今も脳裏から消えない。手足を縛られ拘束されたときに負った、心の深い傷だ。 10代になると、両親は離婚し、ナギサさんは母と2人で暮らし始めた。 「でも、母への怒りも消えなかった。なんで、父の虐待から僕を守ってくれなかったのかって」 次第に感情をうまくコントロールできなくなっていく。一緒に暮らしていた母と祖母に暴力を振るい、家の壁を壊し、母に通報されて鑑別所に送られた。怒りの感情が込み上げると、趣味だったアニメとゲームでごまかしていたが、20代前半からはギャンブルに没頭した。賭けの最中は家族のことを考えずに済んだからだ。 1日5万円から多くて10万円。すべて母からお金をもらっては賭けにつぎ込む。やがて、ギャンブル依存症になったことを自覚し、自助グループに参加したが、長くは続かなかったという。