『あなたの番です』『変な家』...令和の若者に“考察ドラマ”がヒットする理由
ジブリが提示する考察への回答
2023年に公開された映画『君たちはどう生きるか』(スタジオジブリ)。私が「考察の時代」の到来を実感したのは、ほかでもない本作のドキュメンタリードラマを見たときだった。 スタジオジブリの映画制作の様子を撮影したドキュメンタリーは昔から多かった。宮﨑駿監督の創作への葛藤と、それに巻き込まれる周囲のスタッフたちを映し続けるジブリのドキュメンタリー。それは現代のSNSやYouTubeで作者が制作過程を読者に見せる宣伝手法の、ある意味で先行例だったのかもしれない。 ここで再び登場するのが、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』だ。同番組の「ジブリと宮﨑駿の2399日」では、これまで撮ってきた宮﨑監督の創作への葛藤を映すにとどまらない。 なんと、『君たちはどう生きるか』の世間の考察に対して、「大叔父とは高畑勲がモデルで、アオサギとは鈴木敏夫がモデルで、眞人とは宮﨑駿がモデルなのだ」という「ジブリからの回答」があるかのように番組は提示しているのである。 『君たちはどう生きるか』という作品を、「宮﨑駿が高畑勲の死を乗り越えるためだけにつくった、自分たちの関係性をアニメに映し出した作品」という解釈を制作側が描き出した。「この映画は、こういう意図でつくったんですよ」と。 視聴者は安心するだろう。「そういうふうに見ればいいのか」と"答えがわかるのだから"。制作側の回答が明らかになったいま、"答え"を確かめにいこうと、もう一度映画を見に行く人もいるかもしれない。 一方、スタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫は、ラジオ『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』(TOKYO FM80・0、2024年4月14日)で、『プロフェッショナル』では語らなかった点について言及している。鈴木は『君たちはどう生きるか』の重要な点は、宮﨑駿が少年(眞人)の葛藤を描いたところにあるとの趣旨を述べていた。 だが、そのような箇所は『プロフェッショナル』では重点的に取り上げられていない。もちろん、鈴木がそもそもテレビでそれを言う気がなかったのか、言ったが取り上げられなかったのかはわからない。 『君たちはどう生きるか』において描かれた少年の葛藤の核には、宮﨑駿の母親への複雑な感情と、高畑勲や実の父親への愛憎渦巻く感情、どちらも描かれていた。アニメという創作を経て、主人公の少年である眞人は少女と別れ、父の跡を継ぐことを拒否する。そして大叔父は塔のなかで一人いなくなる。それは宮﨑の父の表象ではあるだろう。しかし宮﨑駿と高畑勲の関係として読むにはあまりに複雑すぎる。そんな難しい回答は、令和の「考察」では好まれない――。 そのように番組の制作側が時代の潮流を読んだのか、『プロフェッショナル』では鈴木がラジオで語ったような難解な回答は提示されなかった。SNSや考察が影響力を強めるいま、テレビというマスメディア側も「考察の時代」を意識したコンテンツを提供しているのである。