『あなたの番です』『変な家』...令和の若者に“考察ドラマ”がヒットする理由
令和の大ヒット小説『変な家』は「考察小説」
2024年にシリーズ累計発行部数250万部を突破し、異例のヒットを達成した小説シリーズがある。その名も『変な家』。飛鳥新社から刊行された、ウェブライター雨穴による作品だ。2024年3月には映画化され、興行収入は50億円を突破。来場者の7割は10代・20代が占めており、とにかく近年では珍しいほどに若者を中心にヒットしている。 もともとはウェブメディア「オモコロ」に掲載されたウェブ記事から始まり、のちにYouTubeに「【不動産ミステリー】変な家」として動画が公開された。その内容が小説として本になり、大ヒットした。 なぜ『変な家』は、ここまで売れているのか。さまざまな理由があるだろうが、私は本書を「考察小説」として位置づけたい。 『変な家』は、書き手の雨穴が、知人から不可解な家の間取りを手渡されたところから始まる。じつはその間取りには、謎が秘められていた......。『変な家』は、間取りに込められた一つひとつの謎を読者に提示し、最後に解決していく。その手つきは、まるで、考察ドラマかのようだ。 たとえばYouTube動画「【不動産ミステリー】変な家」でも「考察」を促すやり方は変わらない。動画の最後に「窓」に関する謎がそっと挿入されている。視聴者は、その謎の考察とともに動画について語りたくなる。実際に、『変な家』に関する「残った謎を考察しよう」というブログや動画が大量に生まれ続けている。 小説『変な家』の面白さの1つは、作品全体を通して、「間取りの謎」の話に終始しているところだ。間取りの謎が提示され、長編の第1、2章でたっぷりと謎の細部が用意され、第3、4章でゆっくりと謎解きがなされている。 これが従来のミステリ小説ならば、「謎」のほかに人間関係などのさまざまな情報が盛り込まれていたり、あるいはその間取りで行なわれた事件の詳細が綴られていただろう。しかし『変な家』の前半は、「間取りが不可解である」という謎の説明に終始している。そこに人間の感情は入り込まない。 なぜ『変な家』は、そこまで人間の感情や関係性を排除して謎のみを提示できるのか。答えは回答部分にある。間取りの謎は、おそらく読者が推理しきれない方向性で、回答が提示される。従来のミステリ小説とは違い、伏線を回収するのではなく、読者が自由に考察したのちに作者が答えを提示する構造となっている。 だからこそ、間取りに関するさまざまな人間関係の話は前半に登場せずに済んでいるのだ。必要なのは、謎を解く快感というより、謎を提示され考察し正解を知るプロセスそのものなのである。