大震災もコロナも乗り越えたのに「今がどん底」――資金繰り悪化で苦境、「イカ王子」の再出発 #知り続ける
いったい、自分に何ができるのか。手当たり次第、模索するうち、「目立つことをすれば、この会社や宮古のことを忘れずにいてくれるのでは」と思うようになる。そして、王冠を手に取った。イカ王子の生まれた瞬間だった。飲食店への営業でも出店でも、いつも王冠をかぶり、外さなくなった。 イカ王子のスタイルは、市外でも変えない。東京都内のイベントでも王冠をかぶったままだ。周りからは「30過ぎの大人が何してるんだ」「痛いな」「DJ魚屋かよ」と揶揄されたこともある。それでも鈴木さんは「王冠をトレードマークとして覚えてくれれば、絶対に成功するはず。自分自身が広告塔になれば、広告宣伝料も安く済む」との考えを貫いた。
そして、従来の販売網を変更し、取引の8割近くを生活協同組合の全国ネット販売に絞るという勝負に出た。 「売り上げも右肩上がり。順調に業績は回復しました。新型コロナの際にはイベントでの出店などができなくなりましたが、すでにネット販売に大きく舵を切っていたため、なんとか乗り切れました」 しかし、すべてはうまく運ばない。順調に見えたイカ王子の先行きは、漁獲量低下というパンチに見舞われることになる。
水産事業者の倒産が増加 背景に過去最低の漁獲量
2022年の漁獲量が過去最低となった日本の漁業は今、かつてない苦境にある。 ピーク時に比べて長期的な減少幅が大きいのは、1958年にピークだったサンマ(-96.8%)、1968年に最高だったスルメイカ(-95.6%)やタコ類(-78.4%)などだ。近年は水産事業者の倒産も相次ぐ。東京商工リサーチの調査によると、2023年1~7月の水産事業者の倒産は23件、負債総額は50億8800万円。依然として高い水準にある。 漁獲量の減少は、海水温上昇による生態系の変化が大きいという。そこに、原油高や円安による資材高騰などが追い打ちをかけた。 イカ王子の共和水産だけではない。宮古市の漁業関係者は、ほとんどが打撃を受けている。例えば、市中心部の末広町商店街で「末広町高田魚店」を営む高田優子さん(49)は、こう言う。 「イカの不漁で、まずは取引先を絞らなければいけなくなった。お中元・お歳暮用に、自社のイカの塩辛を東京の高級スーパーに卸していましたが、取引をやめることに。不漁のため取引先の希望する量を作れなくなったからです。また、イカの取れる季節がずれたため、お中元などの贈り物の時期に間に合わなくなったんですよ」 主力のイカの塩辛は、100グラム450円だ。原料の取れ高によって値段の前後はするものの、低価格帯の維持に努めているという。 「父の代からその値段で愛されてきたんです。せっかく海のそばにいるから、おいしいものを少しでも安く食べてもらいたいじゃないですか。人件費を削るなどして、ギリギリで同じ値段を維持しています」