「一生懸命働くのは損」コスパとタイパを重視 「静かな退職」若者に広がる悲しき背景
共感を呼ぶ静かな退職。その下地として、社会に広がる「脱マッチョ」の動きも関係しているのでは。そう話すのはクリエイティブディレクターでarca代表の辻愛沙子さん(29)だ。 「来年で男女雇用機会均等法の制定から40年。社会で働く人たちの中にさまざまなアイデンティティーの人や、子育てや介護をしながら働く人も増えるなどする中で、いままでなかなか言い出せなかった『弱さの開示』ができるようになってきた時代だと思うんです。『24時間戦えますか』に象徴される男性的な社会が、多様なアイデンティティーが入ることで『もっといろんな生き方や価値観があっていいのでは』と変化してきた。それが脱マッチョにつながる一つの要因だと思います」 ■プライベートを楽しみつつ、パッションを持って仕事を マッチョな“気合と根性”ではない形で、全力で仕事にパッションを注ぐ。辻さん自身を含め、そんな働き方が増えてきたことを実感しているという。ただ、事は単純ではない。「マッチョに頑張るか/脱マッチョで頑張るか」の二項対立ではない時代になってきているということも、「静かな退職」から感じるのだと辻さんは言う。 「『静かな退職』という選択は、『脱マッチョだけれども、パッションもない』働き方とも言えると思います。ではパッションのある/ないを分ける要因はどこにあるか。やはり『希望が持てない世の中だ』というところでは」 給料は上がらず、定年退職したら人間関係が切れて孤独になったり。そんな上の世代を見て、「そうはなりたくない」「がんばるだけ損。できるだけコスパとタイパよく生きよう」という、「悲しき省エネモード」になっているのではないか。そう辻さんは見る。 「失われた30年。つまり生まれてこの方ずっと失い続けている私としては、『そりゃそう思うよね』という気持ちもあります。社会に出ていきなり『一生懸命生きよ』と言われても、何に一生懸命になったらいいかわからない。きついよねと」