「一生懸命働くのは損」コスパとタイパを重視 「静かな退職」若者に広がる悲しき背景
最低限の仕事はするが、熱中することはない。退職や転職をする予定はなく、いまの職場にとどまり続ける。そんな「静かな退職」という働き方を主体的に選ぶ人が、若い世代に広がりつつある。背景に何があるのか。AERA 2024年12月16日号より。 【アンケート結果】「『静かなる退職』に共感できる」はこちら * * * 筑波大学教授で社会学者の土井隆義さん(64)。まずは雇用の流動化の側面からこう話す。 「いまは職場に派遣の人が多いですよね。机を並べて仕事する中で、『正規の私が派遣的な生き方をしたっていいのでは』と思ってもおかしくない。そこの影響もあると思います。安泰な正社員の身分を保ちながら、必要最低限な仕事だけこなす派遣的な生き方をする。まさに『静かな退職』と言えます」 また派遣社員が増え、職場の人間関係がかつてほど固定的でも濃密なものでもなくなった結果、たとえ自分だけが仕事に深くコミットしていなくても、職場の人間関係から浮いてしまう事態が起きにくくなったのでは、とも。 「居場所としての役割を職場が担わなくなってきたことも、『静かな退職』が広がる背景になっていると思います」 では、時代背景の特徴はあるのか。 右肩上がりが終わり、社会の上げ潮のない「平坦な時代」を迎えた日本。成長の時代と今日では、「将来の見え方が違う」と土井さんは指摘する。 「上り坂を行く時代なら、山の向こうに『より良い未来がある』と思えた。つまらない仕事でも、下積みとして一生懸命やっていれば、将来は昇進など大きなリターンがあると思えました」 でも平坦な時代では自分の将来が「見渡せてしまう」ように感じられる。そこもポイントだと土井さんは言う。 「昨日と今日は同じ。今日と明日も同じ。そう感じていると将来のために今がんばろうという意識は芽生えにくい。逆に、今が楽しくなければ未来も楽しいはずがないと感じてしまう。だったら、楽しくない仕事など一生懸命やらずに、今の生活をもっと楽しもうと。実はそれは錯覚なのですが、しかしそんな時代背景もあると思います」