発酵と腐敗は同じ!?ブームの火付け役・小倉ヒラクさんが語る発酵食品の魅力
「発酵」は古くから受け継がれた伝統技術
小竹:そもそも発酵について、ヒラクさんはどう定義していますか? 小倉:目に見えない微生物が人間に役に立つ働きをしてくれることを“発酵”と言います。これが最もエッセンシャルな発酵の部分です。例えば、今ここにも菌がめちゃくちゃ飛んでいます。目に見えないだけで、何十万個の菌があらゆるところに満ち溢れています。 小竹:何十万個も…。 小倉:大概は人間の役に立たないし害もなさない菌ですが、ごく一部の菌が役に立つ、あるいはごく一部の菌が役に立たずに腐らせるみたいなことをします。地球上にあるものはほとんど、有機物も無機物も微生物に食べられて変わってしまうという影響を受けます。どうせならいい風に変わってほしいじゃないですか。 小竹:そうですね。 小倉:目に見えない菌が変化を起こしている。放っておくと腐っちゃうからせっかくならおいしくしたい。どうしたらおいしくなるだろうということの再現性を突き詰めていくときに生まれるのが発酵という技術です。 小竹:どうやって突き詰めたのでしょうか? 小倉:例えば、ぶどうを地面に落として放っておくと腐ります。でも、ぶどうを潰してジュースにしてタンクに入れて風通しのいいところに置いておくとおいしくなり、しかも腐りにくくもなる。同じぶどうでもやり方によってワインになるというレシピを見つけたときに、発酵が生まれているんです。 小竹:そこに発酵があると気づいていたのですかね? 小倉:明確に気づいていたみたいで、エジプトの壁画にも残っています。僕たちは目に見えるものしか信じないですが、醸造家の人たちは目に見えないものを感じる力があります。おそらく昔の人も生きるか死ぬかの瀬戸際なので、目に見えないものを感知する力があったはずで、発酵するかしないかみたいなものを結構シビアに捉えているんです。 小竹:すごいですね。見えないものがそこにいて、それがおいしいものに変わるのがわかるということですよね。 小倉:クックパッドにもパンを作るレシピがいっぱい載っていますが、あれも発酵技術の継承です。微生物などの目に見えない自然現象と素材を組み合わせてどうするかということは昔から研究されていて、僕もその伝統を受け取って今の時代に合うように考えています。