発酵と腐敗は同じ!?ブームの火付け役・小倉ヒラクさんが語る発酵食品の魅力
「発酵」と「腐敗」は同じこと!?
小竹:発酵にはカビなどの有害なものもありますが、どう区別しているのですか? 小倉:区別はないですね。微生物が働いているという意味で同じなので、発酵も腐敗も一緒です。 小竹:例えば、お腹を壊すとかおいしくないとかは、人が感じているだけ? 小倉:そうですね。僕が言っているのは、「あなたがおいしいと思えば発酵、まずいと思ったら腐敗」です(笑)。 小竹:国とか文化によって、これは腐敗という人もいたり発酵という人もいたりするということ? 小倉:明らかに発酵、明らかに腐敗というのはありますが、中間が曖昧なんです。5人はおいしいと思うが、5人はやばいと思うみたいなものがいっぱいある。北欧の方のニシンの漬物でとんでもないのがあったり、日本だとくさやみたいなものがあったり、韓国には食べたら気絶するエイの漬物があったりします(笑)。 小竹:うんうん(笑)。 小倉:発酵なのか腐敗なのかというのはすごく悩ましくて、毒みたいな味をしているものでもおいしいと思う人が一定数いたら、ずっと受け継がれる文化になっていくので、それも発酵なんです。でも一方では、例えば和食文化がどれだけ流行っても、納豆はいまいちみたいな国もあるんです。 小竹:そうなんですね。 小倉:発酵と腐敗の境界は曖昧で、発酵と腐敗の際みたいなものが郷土食とかローカル文化の中に残っています。そういう際みたいなものを調査していくのが僕の仕事です。
発酵の世界は「ワンチーム」でやっている
小竹:「発酵はオープンソースだ」とインターネットに例えてお話をされていますが、これはどういう意味ですか? 小倉:発酵はおそらく1万年以上前からあって、例えばワインの技術などは数千年前からずっと引き継がれてきていますが、ワインの特許や商標を取っている人はいないんです。 小竹:そもそもないということ? 小倉:いや、誰が発明したのかがわからない。お味噌も知財を持っている人がいない。お味噌は手作りの文化なので、何百年もかけて各地のお父さんお母さんたちが引き継いできたものなんです。そこにマージンを払うとかはなく、みんなで共有しているんです。 小竹:うんうん。 小倉:山間の村を調査していくと面白いのですが、共通のプラットフォームがありながらも谷を越えると作り方が変わるみたいなこともあるんです。 小竹:はいはい。 小倉:みんなで共有をしてそれぞれが工夫をして差異が生まれ、その差異をまたみんなで共有して新しいものが生まれていき、それがずっと履歴になって残っていくというのは、古き良きインターネットのフリーカルチャーだなと思って。 小竹:うんうん。 小倉:そういうものがあって、発酵文化はすごく豊かになってきたのだというのを感じてきました。 小竹:味噌でも地域によって違ったり家庭によって違ったりして、どんどん個別に最適化されている感じがしますしね。 小倉:そうですね。僕にとってはインターネットは非中心の世界なんです。ここがダメになってもこっちは生き延びるみたいな…。真ん中がなくて全てを所有している人がいない分散型の世界で、そこでは知識も基本的にシェアされる。それってすごく発酵的なんですよね。 小竹:今もそういうことができているのですかね? 小倉:もともと割とフリーカルチャーで手作りの文化だった。それで、戦後の近代化による産業化が起きて、そこには知識の囲い込みみたいなものもあって、各メーカーがそれぞれの技術とかの特許を取ってみたいな感じでやってきて。 小竹:うんうん。 小倉:だから、僕のお父さんお母さんたちの世代は自分のやっていることを隠したがる人が多い。手作りだった文化が工業化していった時代の人たちだと思うんです。僕たちの世代、40歳前後から30代の人たちはオープンにしている人が多くなってきているんです。 小竹:なるほど。 小倉:今までだと、業界の集まりがあっても当たり障りのない話しかしなかったけど、今の若い醸造家たちはすごくオープンで、作り方とかもどんどんシェアしちゃう感じです。