【松田浩(ガンバ大阪フットボール本部 本部長)インタビュー前編】アヤックスとの提携で見据える未来。スカウト、育成、ブランディング……ガンバ大阪の発展はマルチクラブネットワークとともに
2024年3月、ガンバ大阪はAFC アヤックスと3年間の『フットボール戦略パートナーシップ』に合意したことを発表した。トップチームの強化をはじめ、育成、スカウト、事業面まで包括した提携内容は驚きと期待をもってファン・サポーターに受け入れられた。 5月下旬にはアヤックスと提携する4クラブ(CF パチューカ[メキシコ]、アトレチコ・パラナエンセ[ブラジル]、シャージャFC[UAE]、ガンバ大阪)が一堂に会し、フットボールに関する知識と経験を交換することを目的とした『1st Club Network Summit』がオランダ・アムステルダムで開催され、アヤックス以外のクラブとの連携も深まっている。 ガンバ大阪はこうしたネットワークの構築を通じて何を実現しようとしているのか。オランダから帰国直後の松田浩氏(ガンバ大阪フットボール本部 本部長)を直撃取材。『1st Club Network Summit』の所感をはじめ、提携の背景や今後の展望について話を聞いた。 インタビュー・文 玉利剛一(フットボリスタ編集部)
良い関係を築くことで、今後の移籍においても優先的に会話ができる
――アムステルダム出張お疲れ様でした。まずは5月28日~29日に開催された『1st Club Network Summit』について聞かせて下さい。主催のアヤックスとしても初の試みだったようですね。 「アヤックスはガンバ以外にも3クラブとパートナーシップを締結しているので、(アヤックスを含め)5クラブの横のネットワークを強化すると言いますか、リアルの場で交流して相互理解を深めることを目的として開催されたものです。各クラブの担当者がスカウティングフィロソフィーや育成に関する取組みをはじめ、ブランディング戦略、スタジアム活用など事業面についても実例を挙げてプレゼンしてくれました。サミットが開催された2日間で各クラブの理解と関係性が深まったので、今後はメールや電話でカジュアルに連絡を取りあえるようになりますし、有意義な時間になりました」 ――ちなみに、松田さんはガンバ大阪をどのようにプレゼンされたのですか? 「1993年にスタートしたJリーグ発足当初から活動する所謂『オリジナル10』のクラブであり、本拠地がある大阪府のみならず日本全国にファンを持つ人気クラブであること。そして、ACLを含む9つのタイトルを獲得した実績があること。育成についても、現日本代表の堂安(律)選手らの名前を挙げながら、ガンバのアカデミー出身選手を紹介しました。あとは、やはりスタジアムですよね。先日の大阪ダービーの様子を映像で見せて『いい雰囲気でしょ?』って(笑)」 ――大阪ダービーの勝利はこんなところにも好影響をもたらしたのですね(笑)。アヤックスをハブとして交流した3クラブはそれぞれに特徴があります。 「どのクラブも素晴らしいのですが、先日CONCACAFチャンピオンズリーグを優勝したCF パチューカは中学校から大学院までを運営していたり、ホテルやレストランを持っていたり、経営規模的に大きな成功を収めているクラブなので、驚かされる話は多かったですね。アトレチコからもデータ活用面で先進的な話がありましたし、アヤックスが提携相手に選んでいる理由が少し分かる気がしました」 ――競技と事業の両方を包括する点は『1st Club Network Summit』やアヤックスとの提携における重要なポイントだと認識しています。 「そうですね。ガンバとして『1st Club Network Summit』は強化を担当する安東(太昊)と事業本部の副本部長を務める村林(紘行)の3名で参加しました。アムステルダムでは、アヤックスのマーケティング関係の担当者と個別に会話する機会もありましたし、今後は事業面に関しても提携が進んでいく予定です」 ――今後はアヤックス以外の3クラブ(パチューカ、アトレチコ・パラナエンセ、シャージャ)とも提携するという理解で正しいでしょうか? 「提携とまではいかないかもしれませんが、今回のサミットをスタートとして6~7週間に1回の頻度でオンラインミーティングを定期開催しようと話をしています。このネットワークを利用して知識やノウハウを共有し、お互いの弱点を補完したり、強化に活かしたり、そういう関係性を目指しています」 ――各クラブそれぞれに優れている面があるでしょうから、ネットワーク間で情報をシェアできるのは大きなメリットですね。 「育成については、アヤックスのノウハウが優れているイメージがあるかもしれませんが、パチューカも素晴らしいですよ。彼らは選手編成における約7割をホームグロウンの選手が占めているんですよね。アヤックスも彼らの実績やメソッドを認めていて、今回の会議でも『育成に関してはパチューカのノウハウを皆で学ぼう』と話していました」 ――マルチ・クラブ・オーナーシップ(以下、MCO)の活動に近い印象を受けます。 「いえ、完全に横並びの提携という意味でMCOとは違います。金銭的なものは発生していないですし、上下関係のないフラットなネットワークで、お互いにウィンウィンになることを目指しています。アヤックスは『マルチクラブネットワーク』と表現していました。各クラブと良い関係を築くことで、今後の移籍においても優先的に会話ができるでしょうし、そうした面も含めてネットワークを持つ重要性は感じましたね」 ――金銭的なものが発生していない中で、アヤックスがガンバ大阪と提携する決め手は何だったのですか? 「スカウトや事業面でアジアに関する情報を把握したい目的があり、いくつかのJクラブを候補として提携を画策していたようです。最終的にガンバを提携相手に選んだのは、ガンバが大阪という大きな都市を本拠地としていることや、親会社がパナソニックという大企業でかつ、関係性が健全であることからガンバの経営が安定していると評価されたと聞いています」