【松田浩(ガンバ大阪フットボール本部 本部長)インタビュー前編】アヤックスとの提携で見据える未来。スカウト、育成、ブランディング……ガンバ大阪の発展はマルチクラブネットワークとともに
ボランティアのスカウトが欧州中に数百人いる
――ここからはアヤックスとの『フットボール戦略パートナーシップ』について、より具体的な話を聞かせて下さい。提携の対象範囲は広いので、まずは『スカウト連携』にフォーカスします。この分野を提携対象とした背景として、どのような課題認識をお持ちですか? 「近年、欧州のマーケットから日本人選手が注目されているのはご存知の通りです。Jクラブの立場としては選手が流出してしまう訳ですが、その選手の価値に見合った対価(移籍金)を得られていない現状があります。つまり、安い金額で移籍してしまうことの是正をしないと我々としては苦しい。アヤックスと組むことで、欧州市場の情報、価値観、方法論を学び、適切な移籍金で交渉する術を構築する必要性を感じたことは(欧州クラブとの提携を考えた)キッカケです」 ――例えば、『1st Club Network Summit』に参加した5クラブ間のレンタル移籍を通じて選手を育成し、ネットワーク外のクラブに移籍する時は移籍金をシェアするとか、逆にネットワーク内の移籍においては移籍金を抑えるとか、そうした共同戦略を構築する可能性はあるのでしょうか? 「具体的に議論している訳ではないですが、今後は十分に可能性がある話だと思います。ただ、移籍はクラブ間だけで完結できるものではなく、最終的には(選手の)代理人との交渉もあります。クラブとして代理人からの推薦を受けるだけではなく、自分たちのネットワークで選手を見つける術も増やしていく上でもアヤックスとの提携は有効に活用できると考えています」 ――アヤックスを通じて、欧州を主戦場とする代理人との関係を構築できればいいですね。 「それも可能性としてはあります。我々だけでは掴みきれない欧州の情報はありますし、ガンバとして必要とするタイプの選手を伝えた上で、アヤックスから選手を推薦してもらうこともあるかもしれません」 ――欧州クラブのスカウト網や選手に関するデータベースはJクラブと比較すると、かなり大きなものだと聞きます。 「アヤックスに所属するスカウトは数名なのですが、ボランティアのような形で提携しているスカウトが欧州中に数百人いるという話を聞きました。彼らは元選手や指導者である方が多く、アヤックスから選手を評価する基準などを伝える講習会も実施されていて、評価の客観性もある程度は担保されているようです。スカウトのプロセスや基準が整備されている印象はありますし、そうした情報をシェアしてもらえるのは提携クラブであるメリットですよね」 ――そのスカウト網は日本を含むアジアも対象になっているのですか? 「いや、そこまではカバーできていないようです。だからこそ、ガンバ大阪と提携している面もあると思います。特に日本は高校、大学を経由してプロサッカー選手になるケースが多く、その独特なシステムは欧州の人にとっては馴染みがなく、理解しにくいようです」 ――「選手を評価する基準」の話が出ましたが、アヤックスが重視している要素については何か聞かれましたか? 「様々な評価項目があるのですが、彼らが重視しているのは『認知』ですね。認知能力を測るソフトもあって、選手が各局面で何の情報を把握して、どのような判断をしたのかを細かくチェックしている。日本ではまだ『センス』という言葉で片づけられるようなプレーも、彼らは定量的に選手の能力を把握しています。その数値によってサイドがいいのか、真ん中がいいのか、適性ポジションを決めることもあるし、興味深い話は多いですよ」