放出したのは超新星爆発か連星ブラックホールか? 市民科学プロジェクトで見つかった400光年先の高速度星
1つは白色矮星を含む連星系を起源とする説です。白色矮星は、太陽のように比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が赤色巨星へと進化し、周囲にガスや塵(ダスト)を放出した後に残った中心核(コア)から進化した天体です。この白色矮星が別の恒星と連星を成していた場合、恒星から引き寄せられたガスが白色矮星に降り積もることがあります。やがて白色矮星の質量が一定の質量(太陽の約1.4倍)を超えると暴走的な核融合反応が発生し、超新星爆発の一種である「Ia型超新星」を起こして吹き飛ぶと考えられています。 この説では、J1249+3621はかつて白色矮星の伴星だったと仮定しています。ガスを奪った白色矮星が超新星爆発を起こした時、重力による結びつきが断たれたJ1249+3621は爆発の衝撃も加わって高速で放り出されたのではないかというわけです。冒頭の画像はこの説をもとに描かれました。ただし、超新星爆発が起きたのは数百万年前だとみられており、その残骸はすでに散逸しているはずなので、決定的な証拠はないとBurgasserさんは語っています。 もう1つは球状星団を起源とする説です。球状星団とは数万~数百万個の恒星が球状に集まっている天体のことで、天の川銀河ではこれまでに約150個の球状星団が見つかっています。その中心部にはさまざまな質量のブラックホールが存在すると予想されていて、その一部は連星を成しているとも考えられています。こうした連星ブラックホールに恒星が接近すると、複雑な相互作用によってカタパルトのように連星ブラックホールが恒星を打ち出す可能性があるといいます。
研究に参加したカリフォルニア大学サンディエゴ校のKyle Kremerさんがシミュレーションを実行したところ、まれに小質量の準矮星が球状星団から放出されて、観測されたJ1249+3621に似た軌道をたどる可能性が示されました。ただし、具体的にどの球状星団が起源なのかはわからないとKremerさんは語っています。 J1249+3621の起源を探るために、研究チームは元素組成を詳しく調査したいと考えています。仮に白色矮星の伴星だった場合、超新星爆発の時に生成された重元素が放り出されていくJ1249+3621の大気を“汚染”した可能性があります。また、天の川銀河の球状星団や衛星銀河(伴銀河)の星々にみられる特徴的な元素組成から、J1249+3621の起源についての手がかりが得られるかもしれません。どちらの仮説が正しくても、あるいはどちらも正しくなかったとしても、J1249+3621の起源に関する研究は天の川銀河の歴史とダイナミクスをより深く学ぶ機会になると期待されています。 Source NASA - NASA Citizen Scientists Spot Object Moving 1 Million Miles Per Hour W. M. Keck Observatory - Tracking a Lone Star Speeding Across the Milky Way UC San Diego - Lone Star State: Tracking a Low-Mass Star as it Speeds Across the Milky Way Burgasser et al. - Discovery of a Hypervelocity L Subdwarf at the Star/Brown Dwarf Mass Limit (The Astrophysical Journal Letters)
sorae編集部