「80歳・草野仁さんの若さの秘訣は、“あれもこれもやりたい”と足し算で考えること」【和田秀樹対談②】
前を向いて生きる
和田 チャレンジ精神のある方は想像力があるんです。前に出ようという感覚や前を向こうとする意欲もある。年を取ると、そこがいちばん衰えてくる。 草野 そうですね。 和田 草野さんは仕事柄、いろんな人に会い、話を聞いて、感動する機会も多い。脳が常に刺激されている状態です。それも若さの秘訣だと思います。 草野 幸運にも、素晴らしい刺激をいただきながら、仕事を続けることができました。 和田 この連載のテーマでもあるのですが、単に長生きするのではなく、いかに元気で、自分らしく生きるか、を重要視すべきです。 草野 そうですね。 和田 そのために大事なのは、「あれがダメ」とか「これができなくなった」と引き算で考えるのではなく、「あれもできる」「これもやりたい」と足し算で考えることです。要は前向きに生きるということです。草野さんはいつも前向きに見えます。 草野 ハハハ。いえいえ、私は大したことないです(笑)。それよりも、私が和田先生の本を読んで感激したのは、私たちのような年を取った人間のことを「高齢者」ではなく「幸齢者」と言ってくださったことです。 和田 ああ、恐れ入ります。 草野 高齢者とか後期高齢者という言葉は“区分け”としてはわかるんです。でも「後期高齢者」って聞いた時に、なんだかカッとしましてね。「もうじき死んじゃう人のように言うな」と思ったんです。心のこもってない言葉ですよね。だけど「幸齢者」という呼び方には、人間的な温かみがある。私はね、救われた思いがしたんです。 和田 幸齢者が人生の後半を元気に生きる。これは国としても極めて重要なテーマです。ところが先般の自民党総裁選でも、候補者が9人もいながら、誰も何も言わない。 草野 そうですね。 和田 コロナの時もそうです。確かに自粛を促せば感染のリスクは減ります。でも、幸齢者を家に閉じこめておくことがどれほど危険か。その議論はまったくありませんでした。 草野 仰る通りです。 和田 私たち一般人は、家から出ないわけにはいきませんよ。それどころか、外に出て歩いたり、誰かと話したりすることで元気を保つことができるわけです。政治家は運転手付きのクルマに乗ってふんぞり返ってるから、そんなことさえわからない。 草野 本当にそうですね。 和田 愛もなければ、想像力もない。だから若い世代も含め、国民が不安になるんですよ。 草野 先ほども話したように、平気で「後期高齢者」なんて呼び方をしますから。あれは厚生労働省なんでしょうけど。和田先生が使い始めた「幸齢者」って言葉も、本来は政治や行政が使うべきものだと思います。 和田 例えば、想像力がないことは、歩道を見ても明らかです。欧米には、歩道の至る所にベンチが設置されているんですよ。そこにお年寄りが腰かけ、しばらく休んでからまた歩く。海外に行くと、そんな光景をよく目にします。ところが日本は、これだけお年寄りが多い国なのに、そういう配慮がまるでない。それどころか「大変だろうな」という発想すらありません。 草野 「人生百年」という掛け声だけは威勢がいいんですけどね(笑)。 和田秀樹/Hideki Wada 精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。 草野仁/Hitoshi Kusano キャスター。1944年旧満州生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、NHKに入社。1985年に退社しフリーに。『太陽生命 Presents 草野仁の名医が寄りそう! カラダ若返りTV』(BS朝日)でMCを務める。『「伝える」極意』(SB新書)が発売中。
TEXT=山城稔 PHOTOGRAPH=筒井義昭