篠田直哉(メモ少年)「小学校時代、ロバートのおっかけから始まった夢を〈就職〉で現実に。〈バズるコンテンツ〉は逆算して作る!」
◆本を出し、社長賞まで取った篠田Pの「コンテンツ愛」とは 池松:「制作」と「番組の宣伝」は「別物」と考えられることが多いですが、この認識は実際の状況に合わなくなってきていると思います。しかし商習慣が変わらなければ時代にあったコンテンツを生み出し続けるのは難しくないでしょうか?しかし多くのビジネスの場においても、環境の構造変化が認識されていないことが少なくありません。テレビ業界も同様の課題を抱えているのではないでしょうか? 篠田:それは…具体的にはどういったことでしょうか。 池松:篠田さんは、まるで英語のネイティブスピーカーが自然に言語を使いこなすように、SNSでの発信方法を理解していると感じます。そのため「テレビ番組を作ること」と「YouTubeコンテンツを作ること」の両方を違和感なく行えている。しかし組織構造や働き方はそう簡単に変わらないものです。そこでお伺いしたいのですが、SNSに慣れていない社内の方々に対して、この違いをどのように説明されているのでしょうか? 篠田:もうそれは「自分で全部つくる」※ しかないですね。これは会社員としてはダメかもしれませんが。 ※番組制作から番組をPRするYouTubeやそのサムネイル(表紙の画像)までつくること。 池松:それですと、凄い作業量になりますし、現実的に大変だと思いますが。 篠田:先ほどお話ししましたが、テレビ局はどこも同じで「番組をつくる部署」と「番組のPRする部署」などが分かれていますから。 池松:しかし、例えば『秋山歌謡祭』を見ると、制作と番組の宣伝は切り離せないように思えます。「良い番組を作れば自然とバズる」という考え方は、昭和時代の『良い商品さえ作れば売れる』という古い製造業の思考と似ていますね。 篠田:もう少し説明を加えると、出演するタレントさんに対して『どこまで踏み込んでYouTubeコンテンツを作っても大丈夫か?』という判断は、実際に番組を制作している現場である僕たちが一番理解しています。そこを別の人に任せてしまうと、忖度してしまったり、内容が丸くなってしまう場合が起こりがちです。だからその2つは分けずに作った方が効率的だと思います。 池松:なるほど。その大変さは「作業量」だけでなく、仕事の内容や本質が変わっていることを意味するのではないでしょうか? 篠田:例えば『ネット記事でどう取り上げてもらうか?』という視点から逆算する必要があります。『YouTube視聴回数をどう増やすか?』や『SNSでバズらせるにはどうするか?』、そのために『番組収録時にどんな写真や映像を押さえておくべきか?』といったように全体の流れは繋がっています。だから、すべてを出口から逆算して考える必要があるのです。不必要なものは容赦なく削り、収録を大胆に調整しても必要な素材を確保する必要があります。流動的な状況に合わせて柔軟な対処が必要です。これを一貫して実践できるテレビ局は、ほとんど無いのが現状ではないでしょうか。 池松:なるほど。それは篠田さんのバリューですね。しかし「オレYouTubeわかんないから番組宣伝用に作っておいてよ」なんて、その部分だけを切り離して仕事を振られても困りますよね。テレビ番組の素材からYouTube用のコンテンツをただ切り出しても、「バズるコンテンツ」にはなりません。番組の目的に応じて、YouTubeコンテンツとして効果的な映像や写真などの「素材」が何かを逆算して、番組を収録する必要がありますね。 篠田:ええ、そうです。そこだけ仕事を切り出されても難しいですね。そのようなことは1回しかありませんでしたが、台本の段階からYouTubeのサムネイル作成まで一貫して取り組めるのが理想です。だからすべての番組で実現するのは現実的に難しいです。また、これはテレビ業界でよくあることなのですが、番組制作で手一杯になってしまい、「テレビ番組を作る」ことと「YouTubeコンテンツを作る」ことが分離してしまうため、結果として効果が出ないケースが多いように感じます。 池松:1人で全てを手がけるからこそ、物事が上手く進むし、どこまで踏み込んで良いかも自分でコントロールできる。だからこそ、タレントさんに対しても責任を持つことができるわけですね。 篠田:『秋山歌謡祭』を通して痛感しました。そうしなければコンテンツはバズりませんし、まず知ってもらえなければ、テレビ番組も見てもらえません。だからこそ、自分の手がける番組には、たくさんの熱量と時間を注いでいます。 池松:これは、シゴトを仕事として考えたらできません。しっかりした「コンテンツへの愛」が無ければできませんね。 テレビ局にはプロデューサーとディレクターが存在しますが、プロデューサーは、テレビ番組全体の統括責任者であり、予算管理や番組全体の演出をマネジメントする役割を担う。言わば、番組制作における最上位の責任者です。一方、ディレクターは、番組制作の現場で演出を担当し、美術や照明などの技術スタッフに具体的な指示を出す現場責任者。篠田さんはプロデューサーでありながら、ディレクターの役割も一部担当してるということですね。 さらに、従来のテレビ局では「番組を宣伝する部署(宣伝)」の仕事であるYouTubeコンテンツ制作も手掛けています。これは、SNSが存在しなかった時代から考えると、新しい時代のプロデューサー像と言えます。 そうでなければYouTube1000万回再生という数字は出ませんね。数字は嘘をつかない。すごいです。 ________________________________________ ※サムネイル 動画の内容を1枚の画像で表現したもので、YouTubeホーム画面や関連動画、検索結果などに表示されます。サムネイルは、視聴者に動画の内容を瞬時に伝える役割を果たし、再生数に大きな影響を与える非常に重要な要素です。また、再生数や最後まで見たかを示す視聴完了率は、YouTube側に把握されており、これによりリコメンド(推奨)コンテンツとして表示される頻度も左右されます。そのためサムネイルの工夫は最も重要なものです。 ________________________________________ ◆前編を振り返って 4月のある日、YouTubeショート動画に『秋山歌謡祭』がタイムラインに流れてきて、その魅力に引き込まれた私は、「メモ少年」とはどんな人なのだろう?という興味から、6月に東京から長崎まで足を運びました。実際にお会いした篠田さんは、想像以上にナイスガイだったのです。実は篠田さんにお会いするのは今回が2度目。クラウドファンディングのリターンとして行われた長崎総合科学大学でのメモ少年の講義に参加したのでした。あの日がなければこの企画は実現しなかったでしょう。改めて、松岡教授と講義企画の松岡様に感謝いたします。いやぁ長崎まで行って本当に良かったです。 今回の企画の鍵は、「メモ少年を最初に面接した方」へのインタビュー。この企画に賛同し協力してくださった広報・佐藤幸子様のお力添えがなければ、この記事は成立しませんでした。そして、今回の記事では「ロバート」についての話題は一切登場しません。HAF(ハード秋山ファン)の皆様には申し訳ありませんが、写真の中には『秋山歌謡祭2024』のミニPOPも写り込んでいますので、ぜひ探してみてください。さらに楽しくなるはずです。 後編では、メモ少年を採用した人事部長へのインタビューを通じて、彼の「知られざる魔法」に迫ります。どうぞお楽しみに! (撮影=池松潤)
篠田直哉,池松潤