いつか必ず死が訪れる中、80歳が超高額な「再生医療」を選ぶべきか…超高齢化社会で本当に必要な「医療」とは
治療を必要とする人が適切な医療を受けるには何が必要か。アステラス製薬の岡村直樹社長は「医療資源には限りがあり、また現在の医療保険制度の財政は大変厳しい状況にある。その上に高額な細胞医療、遺伝子治療の費用を乗せるというのは難しい。サステイナブルな医療体制を確立するための『医療のエコ活動』は急務である」という。鳥取大学医学部附属病院の武中篤病院長との対談をお届けする――。 【写真】鳥取大学医学部附属病院の武中篤病院長(左)とアステラス製薬の岡村直樹社長(右) ※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 増刊号』の一部を再編集したものです。 ■「医療のエコ」が必要な理由 【武中篤(鳥取大学医学部附属病院長)】病院長になってから、人口が減りつつあるこの地方で、いかに持続的に医療を提供し続けるかを考え続けています。まず、地方では人が足りないです。医師も看護師も足りない。 幸い、とりだい病院はなんとか人材を確保していますが、少し離れた病院だと募集してもこない。さらに、俯瞰的(ふかんてき)にみると、地球は温暖化という危機に瀕(ひん)している。我々は、環境、つまりエコロジーにも配慮しながら、人口減の中、サステイナブルな医療体制を確立しなければならない。「医療のエコ」です。 たまたまアステラス製薬の方にその話をしたら、社長以下、「医療のエコ活動」の啓発活動に力を入れているとおっしゃったのです。 【岡村直樹(アステラス製薬 代表取締役CEO)】アステラス製薬は、変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの「価値」に変えることを「VISION」に掲げています。これまでの薬のほとんどは、血圧を例にとれば、薬を飲むことで血圧を下げる。 飲まないと、血圧がもとに戻るというものでした。一方、今、開発を進めている細胞医療や遺伝子治療は少し違います。 【武中】細胞医療とは患者さん自身の細胞、あるいは他人の細胞から培養や加工により作製した細胞を用いて、損なわれた身体の機能の回復や病気の状態の改善を目指す治療。遺伝子治療は、様々な技術を用いて作製した治療用の遺伝子を投与することで、主に遺伝子疾患の状態の改善を目指す治療。従来の薬の多くが、患者さんの症状を軽くする対症療法とすれば、細胞医療や遺伝子治療は、疾患の原因にアプローチする根本療法。 【岡村】身体のある器官の反応が悪くなったとします。薬でもとに戻るならばいいでしょう。しかし、完全に壊れた、あるいは無くなってしまった場合、正しく機能する細胞に替えるしかない。 【武中】身体の中の、血液を全部入れ替える骨髄移植と同じですね。我々のような外科医にとっては、こうした治療は怖さがあります。自然の摂理に反しているというか……。 【岡村】(深くうなずいて)そもそも細胞医療を薬の範疇(はんちゅう)にいれていいかという議論もあるでしょう。我々は細胞医療をみなさんやりましょうという考えではない。 困っている患者さんに対して、こういう選択肢もありますと提示したい。現時点では、患者さんは選びたくても選べない状況なのです。