いつか必ず死が訪れる中、80歳が超高額な「再生医療」を選ぶべきか…超高齢化社会で本当に必要な「医療」とは
■分母を小さくすることにも目を向ける 【武中】「VISION」とは冒頭、おっしゃったアステラス製薬の、変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの「価値」に変えること、ですね。「価値」という言葉にカギかっこをつけているのは、何か意味があるのですか? 【岡村】ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター先生(ハーバード大学経営大学院教授、企業戦略や国際戦略など、競争戦略研究の第一人者)の定義を借用しています。「価値」を導き出す数式の分母は、医療システム全体に対するコスト(費用)、分子は患者さんにとって本当に意味のあるアウトカム(結果)。 ある薬を100人の患者さんに投与して奏効率が3分の1、つまり33パーセントならば33人の患者さんに効果が出たということです。我々製薬会社の人間は、次は奏効率を倍にしたいと考えます。 【武中】分子を倍にすれば、「価値」は倍になりますね。 【岡村】一方、こういう考えもあります。奏効率は33パーセントのままでいい。それよりもどのような患者さんが33パーセントに入るかをあらかじめ特定する。33パーセントに入る患者さんを特定することができれば、アウトカムの総量は変わらないのに、コストは3分の1になるので「価値」は3倍になる。 これまで製薬会社は「分子」ばかり見てきた。どのような患者さんに薬を使用するかというのは医師が決めます。我々はこれまであまり分母に関わることはありませんでした。これからは分母を小さくすることにも目を向けようと考えています。これも医療のエコです。 ■自分の足で歩いて回れるぐらいのコミュニティを 【武中】それこそ個別化医療(※5)です。時代の流れに合致している。ところで岡村さんは静岡県出身ですね。静岡でさえ、地区によっては過疎が進んでいるそうですね。 【岡村】生まれは清水市の草薙(くさなぎ)。今は静岡市となっています。中学一年生のときに焼津市に引っ越しました。今も母が一人で住んでいます。静岡は距離的に東京に近いので、高校を卒業すると大学や就職でみんな東京に行ってしまう。 かつてはその中でも戻ってくる人が一定数いましたが、今はその数が減っています。また戻ってくる方も高齢化している。昔は焼津にも、子どもがたくさんいました。今はほとんど子どもの姿が消えて小学校が統廃合していく。 【武中】(ため息をついて)静岡でさえ、そこまでひどい状況ですか? 【岡村】アメリカにならって都市計画を進めたのだと思いますが、国道の脇にチェーン店が並んでいる。そこまで行かないと生活が成り立たない。自動車が不可欠な社会を作ってしまった。そもそも運転免許がない、あるいは免許返納してしまったシニアの方々はどこにも行けない。バスがあるのですが、どんどん本数が減っている。 【武中】山陰地方も同じです。バスの便数やタクシーを増やそうにも運転士がいない。ごく一部の大都市圏以外は同じ問題を抱えていると思います。 【岡村】基本的には自分の足で歩いて回れるぐらいのこぢんまりした範囲内で生活できるコミュニティ(共同体)を作るべきだと思うのです。そのコミュニティとコミュニティが鉄道や道路でつながっていればいい。