締切が守れない…他部署からは猛抗議を受けた、20代「営業事務」の女性が「上司の口調」にショックを受けたワケ
公認心理師として行政や企業などの職場で約1万人の悩みを聴いてきた舟木彩乃さんは、相談ごとの中に、発達障害グレーゾーンの特性から来る問題がひそんでいることが多いと話します。 【マンガ】息子の暴力が止まらない…発達障害と向き合う「母の悩み」 病院で診断を受ける「発達障害」とはちがう「グレーゾーン」とはどのようなものなのか、周囲はどのように対応すればよいのか『発達障害グレーゾーンの部下たち』より一部抜粋・編集して解説します。
発達障害グレーゾーンに気づき、対応するプロセスとは
発達障害などによる障害者雇用枠での採用とは違い、発達障害グレーゾーンの社員は、入社当初から障害が明らかになっていることがほとんどありません。働き出してしばらく経ってから、メンタルヘルスの不調が現れたときに、その背景に発達障害グレーゾーンがあったと分かることが多いようです。 職場としてどのように対応していくかを決めるときは、病気の有無や種類(疾病性)に関する情報だけではなく、職場で実際に生じている問題(事例性)にフォーカスすることが大切です。 たとえば、うつ病や統合失調症と診断されている場合(疾病性)でも、職場で問題なく働けている(当事者も組織も病気に起因する困りごとがない)状態であれば、職場としては特別に対応する必要はないということになります。 一方で、診断はついていないけれど、遅刻やミスが異様に多いというような問題が生じている場合(事例性)には、上司として対応し、適宜解決していく必要があるでしょう。 したがって、職場で生じている問題(事例性)について、本人と上司や部署がそれぞれなにに困っているかについて、コミュニケーションを重ねながら一緒に整理していくことが大切です。事務員として働くQさん(女性20代)のケースで考えてみましょう。
ミスが多く期限も守れないQさん
Qさんは、営業アシスタントとして営業部員の精算管理や書類作成などをしています。今の職場で働き始めて1年近く経ちますが、彼女がつくった書類には、押印やサインの漏れ、入力ミスなど、常になにかしらのミスがあります。 かなりの頻度で提出先である経理部などの他部署から指摘されて再提出を命じられたり、提出期限に間に合わず注意されたりしているようです(事例性)。 Qさんは、素直で愛嬌があるタイプだったので、ミスが多くても上司を含めた周囲は、軽く注意はするものの笑って済ませているようなところがありました。しかし、経理部からQさんの上司に対して正式に抗議があり、上司とQさんは対応を迫られることになりました。 上司はQさんに対し、いつもより厳しめな口調で、「書類を経理部に提出する前によくチェックしてから出すこと」や「提出期限を守ること」を指示しましたが、あまり改善はされなかったようです。 そのうえ、上司のいつもより厳しい口調にショックを受けたのか、それ以来、Qさんの上司に対する態度がよそよそしくなった気がすると言って、上司がカウンセラーである筆者のところに相談にきました。 上司は、ネットニュースで読んだ「発達障害」の記事が、Qさんに合致していると感じたそうです。 …つづく<20代の部下を「発達障害グレーゾン」と疑う上司がとった「納得の改善策」…「違和感の正体」はこれだった>では、Qさんとその上司がとった解決策についての詳細をお伝えします。
舟木 彩乃(ストレスマネジメント専門家・公認心理師)