「死ぬこと」を命じられた若者たち…指名された「最初の特攻隊員13名」が「志願」を強制されるまでの「あまりに悲壮なやりとり」
「特攻隊員」の指名
門司が眠っている間に、階下ではいくつかの重要な出来事が起きている。玉井副長はさっそく体当り攻撃隊の編成にとりかかった。このとき集合を命ぜられたのは、玉井が子飼いの部下と自他ともに認める甲種予科練十期生出身の満18~20歳の若者だった。 「甲飛十期生総員集合」 深夜のマバラカットの集落に、二〇一空本部の従兵たちの声が響いたのは、10月19日、夜もかなり遅い時間であった。搭乗員たちは、接収した民家に飛行隊ごとに分宿している。 三々五々、徒歩で集まった甲飛十期生は、前庭の右手にある従兵室に入れられた。その人数は、前出『神風特別攻撃隊』によれば23名だが、甲飛十期の生き残り搭乗員の調査によれば33名である。当時、二〇一空には63名の甲飛十期生がいて、内地に飛行機を取りに帰っている数名と、傷病のため休んでいた者をのぞく約半数が集まった。 狭い従兵室に搭乗員を並ばせ、向かい合って中央に玉井副長、その背後に指宿大尉が立つ。玉井が、 「本日、大西長官が本部に来られた」 と、口火を切った。 「一週間、比島東海岸の制空権を握り、このたびの作戦を成功させることができれば日本は勝つ。そのためにはお前たちの零戦に爆弾を抱いて、敵空母に突っ込んで叩きつぶす必要がある。日本の運命はお前たちの双肩にかかっている」 搭乗員たちは、あまりに急な話に驚き、言葉も発せず棒立ちになっていた。「爆弾を抱いて突っ込む」というのはすなわち「死ぬこと」であり、躊躇があったとしてもおかしくない。玉井は、一段と声を大きくして言った。 「いいか、お前たちは突っ込んでくれるか!」 若くともすでに数多くの死地を経てきた搭乗員たちには、戦闘機乗りとしての誇りがある。空戦で、敵より技倆が劣っていて撃墜されるのなら仕方がない。だが、爆弾を抱いて体当りでは、なんのためにいままで厳しい訓練に耐え、腕を磨いてきたのかわからない。いつでも死ぬ覚悟はできている。現に多くの仲間が死んでいった。だが決死の覚悟で戦うのと、死が約束されている任務につくのとでは、天と地ほどの差がある――これは、零戦搭乗員の多くに共通する感覚だった。