「死ぬこと」を命じられた若者たち…指名された「最初の特攻隊員13名」が「志願」を強制されるまでの「あまりに悲壮なやりとり」
「命令」でも、「志願」でもない
「お呼びですか?」 と階下の士官室に現れた関に、玉井は椅子をすすめ、肩を抱くように二、三度軽く叩いて、 「関、今日、長官がじきじきに来られたのは、『捷号作戦』を成功させるために、零戦に250キロ爆弾を搭載して敵に体当りをかけたいという計画を諮られるためだったんだ。これは貴様もうすうす知っていることと思うが、ついてはこの攻撃隊の指揮官として貴様に白羽の矢を立てたんだが、どうか」 と言った。これは、関にとっては寝耳に水のことであったに違いない。戦後、猪口から門司が聞かされたところによると、関ははじめ、 「一晩、考えさせてください」 と答えた。 だが、編成は急を要する。できれば明日にも、敵機動部隊が現れれば攻撃をかけなければばならない。玉井は重ねて大西長官の決意を説明し、 「どうだろう、君が征ってくれるか」 関にたたみかけた。関は、 「承知しました」 と、短く答えた。「命令」ではないにしても、志願ではない。断ることのできない状況で、限りなく強制に近い説得に応じたのであった。
関大尉の「遺書」
門司は、誰かが階段を上がってくる足音でハッと目が覚めた。時計を見ようとしたが、暗くて見えない。だいぶ夜も更けた時間のようであった。 「足音は私の傍を通って長官の休んでいる部屋の前で止まりました。ノックする音が聞こえ、『長官、長官』と低く呼ぶのは猪口参謀の声でした。すぐに中から「うむ」という声が聞こえ、猪口参謀は部屋に入っていった。数分で2人は出てきて、階段を下りていきました。しばらく耳を澄ませましたが、長官はなかなか戻ってこない。それで、階下の様子が気になって、私はベッドの脇に置いていた半長靴を履き、上衣をつけると、階下に降りてみました」 士官室にはまだカンテラの灯りがともっていた。門司が小さくドアをノックして入って行くと、玉井副長が、 「まだ起きていたのか」 と声をかけた。士官室には、大西、猪口、玉井のほか、2、3人の士官がいたと門司は記憶している。門司は、部屋の隅の椅子に腰かけた。妙に静かな空気だった。 「やがて、猪口参謀が、髪をボサボサのオールバックにした痩せ型の士官に、『関大尉はまだチョンガー(独身)だっけ』と声をかけた。『関大尉』と呼ばれた士官は、『いや』と言葉少なに答えただけでしたが、この会話で私は、この人が大西中将の言った『決死隊』の指揮官に決まったことと、この決死隊がただの決死隊ではないことを悟りました」 関は、 「ちょっと失礼します」 と言って、ほかの士官に背を向け、傍らの机に向かって何かを書き始めた。遺書のようだった。沈黙が続く。この夜の士官室の空気は、 「何か沈みきった落ち着きのようなものが感じられた。緊迫もしていなければちぐはぐな感じもない。静かでした」 と、門司は回想する。ややあって、門司は、猪口参謀に促されて2階のベッドに戻った。時計を見ると、もう午前2時に近かった。