TSMC特需に沸く熊本経済、日本再生のモデルケースになり得るのか
日本の人口は10年余り前から減少に転じ、現在も年間約60万人のペースで減少し続けている。投資不足に加え、急速な人口減少により、全国の町や村は打撃を受けている。最近は外国人に対して門戸が開かれつつあるものの、本格的な移民政策は依然として政治的なタブーのままだ。
人口動態は問題の一部にすぎない。日本の時間当たり労働生産性は、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中30位だ。自動車産業を除き、日本の製造業は経済停滞によって打撃を受けてきた。海外のライバル企業が半導体生産で世界シェアを拡大する中、日本はそれについていくことができなかった。こうした状況の下、長引くデフレの中で、当局は経済を活性化するために物価上昇率が2%で安定的に推移することを主要目標に掲げた。
長期にわたる経済の停滞があったが故に、今これほどまで大きな興奮がもたらされている。ここ数十年で最大の賃上げ実施に伴ってインフレが再燃し、日銀は今年、2007年以来初となる利上げに踏み切った。政府もまた、半導体産業再興のために約4兆円を計上。TSMCのほか、韓国のサムスン電子や半導体メモリー大手の米マイクロン・テクノロジーなどに日本での事業強化を促す戦略を進めている。
熊本は経済の好循環が定着しつつある都市の一つであり、賃金や物価が上昇し、消費が押し上げられている。新たに進出した企業の一つに、TSMCが半導体製造工程で使用する特殊ガスのインフラを供給するジャパンマテリアルがある。半導体ブームに乗った同社は賃上げを実施したほか、他の地域から移り住んだ従業員を含め熊本で約160人を雇用している。TSMC工場に続く沿道の看板には、バーやレストラン、近隣の温泉リゾートの広告が出ている。
政府が4兆円投じる半導体戦略、鍵握るラピダスに期待と懸念の声
ジャパンマテリアルで管理業務の職を得て県内の別の地域から移り住んだ渡部千鶴さんは、「盛り上がりのあるところに一緒に入っているというか、何かこれから先、すごいことが起こっていくんだなという中にいるのがいいのかなと思う」と語った。