TSMC特需に沸く熊本経済、日本再生のモデルケースになり得るのか
熊本は戦略上でも重要だ。TSMCの工場を通じて日本と台湾は結びつきを強めている。中国が台湾を占領しようと動けば、周辺地域の火種になる恐れがある。こうした懸念は、日本の防衛費を2028年までにGDPの1%から2%に引き上げる決定に大きな役割を果たした。岸田首相は、ロシアによるウクライナ侵略について、アジアでも同様の事態が起こり得るとして繰り返し警鐘を鳴らしている。
その資金の一部は、陸上自衛隊の西部方面総監部がある熊本県の駐屯地に配備された対艦ミサイルに投じられている。東京と台湾の首都の中間地点にほぼ位置するこの駐屯地は、日本が地域紛争に巻き込まれた場合、重要な役割を担うことになるだろう。
木村敬熊本県知事は、県内の好調な経済が少子化や東京など都市部への若者流出という問題の解決につながると述べた。住民が将来を楽観視するようになれば、家庭を持ち、定住する可能性が高まると言う。さらに、熊本における半導体サプライチェーンの成長は、経済的に弱い立場にある県内の地域にもいずれ波及するだろうと付け加えた。
九州フィナンシャルグループの推計によると、TSMC進出を含む電子デバイス関連産業の集積で熊本県内に生じる経済波及効果は、31年までに約11兆円に上る。
木村知事は、「今まで30年間閉じていた日本の経済を、熊本からアジアに向かって開かせることで、日本経済を再生できるのではないかと思っている」と語った。
ただ、TSMCの熊本工場からほど近い和水町では悲観論が根強い。この町の住人約9000人のうち約40%は65歳以上だ。昨年は188人の住民が亡くなったのに対し、出生数はわずか44人だった。
和水町の石原佳幸町長は、日本のリーダーが変わっても大きな変化はないとみている。「特に何か印象がある政策はあまりなくて、直接この田舎まで届いてきているのはなかった」と指摘。「地方をもっと盛り上げてくれるような政策を展開していただきたい」と語った。