『光る君へ』紀行コーナーに登場した中宮・彰子の大原野神社への行啓。紫式部が『源氏物語』にも描いた大原野とは
◆モネの『睡蓮』と鹿の手水舎 オフシーズンの晩夏だったせいか、参拝客の姿もまばら。桜や紅葉は見られないものの、奈良の猿沢池を模したという「鯉沢池(こいさわのいけ)」に、睡蓮の花がひっそりと咲いていました。 池にかかる橋と水面に広がる睡蓮。どこかで見た風景だと思ったら、印象派の画家・モネが好んで描いた睡蓮の池に似ています。そのため、「モネの池」と呼ばれることもあるとか。言われてみれば「うーん、なるほど」という感じでしょうか。 境内をさらに奥に進むと、本殿が見えてきます。 檜皮葺きの4社殿が連なる本殿は、奈良の春日大社と同じ様式で、「京春日」との呼び名にふさわしいたたずまい。こんな連載をしているせいか、本殿に参拝すると、平安時代の人々と時空を越えてつながったような感慨を覚えます。 鹿が、神様のお使いの「神鹿(しんろく)」として大切にされていることも春日大社と同じ。1995年までは、実際に鹿が飼われていたそうです。 鹿がいなくなった現在も、神鹿をモチーフとしたものが境内のあちこちに。たとえば、「手水舎」には鹿の像が置かれており、鹿がくわえた巻物から水が流れ出る趣向になっているのです。
◆狛犬ならぬ「狛鹿」に注目 鹿の手水舎で身を清めて三の鳥居をくぐると、次なるサプライズが。 なんと、狛犬ならぬ「狛鹿」が本殿を護っているのです。 「狛鹿」は全国でもここだけということで、珍しさと愛らしさに、目が釘付けになります。 大原野神社のご利益は、良縁成就、縁結び、家内安全、勝運、厄除けなど。御守りなどの授与品やおみくじにも神鹿があしらわれていて、あれもこれもほしくなってしまいます。 帰りのバスは1時間に1本しかないため、時間つぶしも兼ねて、鯉沢池のほとりにある春日乃茶屋でひと休み。名物のよもぎ団子と冷たいよもぎ茶をいただきました。 古くから大原野ではよもぎがよく採れたとか。この店のよもぎ団子も、昔ながらの味と形を守っているとのことで、素朴な甘さと自然の苦みが、疲れた身体に沁みました。 1000年前、豪華な行列を従えた中宮・彰子は、どんな心持ちでこの社を参拝したのでしょう。一条天皇との夫婦仲が深まり、一族がさらに繁栄することを祈願したのでしょうか。 一方、お供をした紫式部は何を祈ったのか。物語の成功か、あるいは娘の健やかな成長か……。よもぎ茶を飲みながら、そんな想像をしてみるのもおもしろいかもしれません。
SUMIKO KAJIYAMA
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