少人数、低予算、演技経験不問――米アカデミー賞など受賞相次ぐ、濱口竜介監督の独自性 #ニュースその後
上映館数やネット配信に対する考え
作品をたくさんの人に見てもらうには、たくさんの映画館で上映されなければならない。しかし濱口監督はこれもまた、多いほどいいとは思っていない。 「上映館数もバランスの中で考えます。多くの人に見てほしいのは大前提ですが、たくさんの映画館で上映するとなると、それだけの席数を埋めるために事前の宣伝をしなくてはならない。そうすると宣伝費がかかる。例えば『偶然と想像』はミニシアター(一般的に、定員が200席未満の劇場を指す)を中心に公開しました。この映画の制作規模であれば、普段ミニシアターに来ているお客さんが来てくれれば回収できますし、結果的に我々にとっては十分、ヒットしました。そういうことが起これば、自分が観客としても監督としてもお世話になってきた、ミニシアターへの恩返しにもなります。『悪は存在しない』も公開が始まって実際にお客さんが来れば、より広がることもあるかもしれませんが、それは起きたらラッキー、というぐらいのことです」 近年、多くの映画をネット配信で見ることができるが、濱口監督の作品で配信されているものは少ない。 「自分がふだん配信作品を見ている態度を思い返すと、無理にやらなくてもいいかなと(笑)。単純に見るうえでの集中力は低くなる。これまでに作った自分の映画と配信という視聴スタイルはあまり合っていないんじゃないかなと思っています」
拡大志向ではなく、独自の判断基準を持つ。日本映画界の課題を尋ねてみると、「自分以外の現場を知らないから、なんとも言えないけれど」と前置きしつつ、こう指摘した。 「ひとつ言えるのは、オリジナルの脚本ではなく、原作を漫画など、他のメディアから持ってくる場合、メディアの置き換えに結構お金がかかります。2次元のものを3次元にして違和感をなくすには、コストがかかるうえにうまくいくか読めない面もある。ある種、その無理を通すために準備段階にたくさんの人が動くことになり、その分お金がかかるのではないかと。そこをもう少し人数を絞り込んでより長期間、初期段階の脚本やリサーチにきちんとお金をかけると、より面白い作品ができやすいのではないかと想像します」 「大前提として、日本の実写映画の制作状況では、〈カメラで現実を撮る〉という条件をあまり変えられません。じゃあ、自分たちの扱うメディアの特性と合った物語はどういうものなのか、ちゃんと自前で考えていくところから制作は始まると思います。単純に言えば、現実に即するということです。知名度の高い原作映画は、短期の集客としては成立しますが、実写映画として面白いものを作っていかないと、見に来てくれた観客との信頼関係は損なわれます。そうなると観客は段階的に減り、結果として制作現場にもお金が回らなくなる、という悪循環が起こるでしょう。アニメ映画の好況で見えづらくなっていますが、もう既にそうなっているのではないかという気もします」