少人数、低予算、演技経験不問――米アカデミー賞など受賞相次ぐ、濱口竜介監督の独自性 #ニュースその後
小規模だからといって、ビジネスとして捉えていないわけではない。これまでに作った作品で、赤字が出たものはおそらくないという。重視しているのは、制作規模と予算のバランスを見極めること。「自分が作りたい映画を作るためには、今の日本映画界における規模と予算のバランスを書き換える必要がある」と説明する。 「一番重要なのは、自分が何を作りたいか、見たいかです。じゃあそのために、どれくらいの人数と時間が必要なのか。さらに撮影期間、準備期間、休みをしっかり取れる制作環境が望ましい。だけど、そういう時間をちゃんと取るためには、予算が『これぐらいのものを作るなら、大体これぐらいの予算でしょう』という現状の日本映画の前提を超えたものでないといけない、と感じています。でも、その日本映画界の枠組みは、自分には簡単に変更できないものです。1億円で作っていた映画を、明日から3億円かかります、とは言えない。だからまず、小規模の制作体制でも面白くできる企画を考えて、その規模に対して十分な予算を用意する、ということをしています」 また、予算は多いほどいいわけでもないという。 「企業でも役所でも“年度”という区切りがあって、その中である程度の成果を出す必要がありますよね。大量のビジネス的なコミュニケーションを管理するうえでは、そうするしかないのは分かります。でも、いわゆるクリエーティブというものは、今までにないものを生み出そうとするわけです。するとそこには絶対トライ・アンド・エラーがある。必ず生じる失敗をリカバーしたり改善したりするには、相応の時間がかかります。最終的によいクオリティーのものを仕上げるためには、時間を確保しなければなりません。予算はあくまでその時間を確保するのに十分なだけあればいい、ということです。この時、誰も気にしないくらい小さい規模にすれば、年度の枠組みを超えて活動することも可能ではないか、と考えています。小さな規模でも、それに対して十分な予算と、時間をかけることができたら、映画の中の瞬間ひとつひとつを充実させることはできるでしょう」