俺はトップっていう意識はない。異端だよ――「世界のキタノ」が振り返る監督業、そして芸能生活 #昭和98年
なぜ映画を撮るのか問うと、「何をやってもダメだから」と答えた北野武(76)。「やっぱり俺は、芸人だよ。それも、中途半端な芸人。まだみんなに認められてねえなって」。自分に一番ぴったりくるものを模索し続けているうちに、「こうなっちゃった」と照れ笑い。「人間五十年」の時代の男たちのドラマを描きながら、現「100年時代」の日本人を見つめる、“異端児”北野武の仕事観、そして死生観とは。(取材・文:山野井春絵/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル特集編集部)
中途半端な芸人で、まだみんなに認められてねえなって
「今思えば、漫才師というのはアスリートのようなもの。若くないとできない。40代でもう頭、体力が追いつかなかった。だから映画とかに手を出した。本当のことを言うと、なぜいろんなものをやるかって、それは、何をやってもダメだから。自分の仕事には、何も満足していません」 映画監督として世界的な名声を得ながら、お笑い芸人、タレントでもあり続ける理由を北野武(76)はそう話した。 「満足していない」の本意を尋ねると、北野は、さまざまな仕事が並行する様子を陸上競技になぞらえた。 「十種競技だったら、俺、1位だなとは思うよ。総合チャンピオンかもしれない。でも1500mでも走り幅跳びでも、本当の1種目だったら、もっと強いのがいるじゃない。やっぱり勝てねえなって、そういう気持ちは、すごくある。俺は、漫才もテレビも、映画監督も役者もなんでも、芸人という言葉でひとくくりにしてる。やっぱり、俺は芸人だよ。それも中途半端な芸人で、まだみんなに認められてねえなっていうかね。どの分野見ても、こいつはすごいなって人がいる。一回もトップになんか立ってないんだよ」
海外に媚を売ったらダメ
その述懐は意外だった。 「世界のキタノ」だ。日本の映画界、ひいては芸能界のトップ。大多数がそう北野を仰ぎ見ている。 「うーん。俺はトップっていう意識はない。異端だよ。異端者のトップだとは思うけど。何かの集合体の上にいるわけではなくて、そこから転げ落ちちゃった、弾き飛ばされた、孤高の人だと思っているし。余計な権力争いもないし、楽でいいやって。好きなこと言ってりゃいいしね。だから、政治なんかには無関心。関心があるのは税金だけ。高け~よ!って文句言うだけ(笑)」 「世界の」という冠も、自分からのせるつもりはない。 作品に対する海外からの評価を意識するかと尋ねると、首を振った。 「海外の客を意識するのは、本当に日本の監督の一番ダメなところだと思う。無視してなきゃダメなんだよ。だから向こう(海外)の人が興味を持つんで。媚を売った瞬間に、向こうの人はね、気がつくから。『あんたたちには分かんなくたっていい』っていう状態でいいのであって、『同じようにこう考えます』みたいなことは、やると見透かされる。インタビューでも、禅とか武士道とか言った瞬間に、ウソだってバレるよ。日本のそういうものに興味があると勘違いして日本の監督がよく答えるんだけど、あれも全然相手にされてないから。やめたほうがいい」