「正月映画」は消えたのか──ネット配信だけが要因ではない日本の生活様式の変化 #昭和98年
かつては一般的に使われていた言葉が、気がつけばあまり目に、あるいは耳にしなくなっている……。そんな言葉のひとつが「正月映画」かもしれない。映画の興行では一年のうちに何度か、多くの集客を期待できる“繁忙期”がある。中でも年末年始は一年のうちでも映画会社が期待をかけた作品を公開し、大々的に宣伝していた。しかし近年、その傾向は薄れつつあるようだ。「正月映画」衰退の3つの要因とは。(文:斉藤博昭/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
昭和の正月映画といえば「寅さん」が定番
「正月映画」とは、12月頭(年によって11月の終盤)から1月前半にかけて劇場公開される映画のこと。年末から公開が始まって、年明けまで劇場をにぎわせる作品群を指す。1月中旬以降の公開作を「正月映画第2弾」と呼んでいた時期もあった。アメリカでは11月の感謝祭から年明けにかけた「ホリデーシーズン」の映画、中国圏では旧正月に合わせた「春節映画」など、映画商戦が活況を呈す時期に大ヒットが見込める作品を公開しているように、日本では年明けの「おめでたい」というムードと相まって、長らく正月映画という言葉が親しまれてきた。 正月映画が最も盛り上がりを見せていたのは、1970年代あたり。正月映画といえば「定番」の作品が公開され、毎年、同じことを繰り返して新年を祝う日本人気質にも合致していた。たとえば「寅さん」。『男はつらいよ』は第50作まで続いたシリーズだが、第9作からはお盆と年末という年2作の公開が定着。第37作以降は夏公開が減り、毎年1回、年末の公開が第48作まで切れ目なく続いた。正月映画イコール「寅さん」として国民的風物詩であった。 1970~80年代の邦画では、アイドル歌手や俳優を主演にした作品も正月映画として公開され続けた。また1980年代終盤から2000年代前半にかけては、「ゴジラ」シリーズが定番として正月映画に組み込まれた。毎年、年末から正月にかけて、おなじみの作品が公開されることがルーティーンとなり、正月映画というくくりが成り立っていた。