誰も説明できない「マイナ保険証はなぜ必要か?」、それでも必要だと断言するワケ
■ 医療DXについて国民が理解しておくべきこと 中島:日本の薬剤承認を行う機関でもある独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、2018年からMID-NETという事業を展開しています。 この事業では、日本国内の10の大きな病院グループの電子カルテのデータを用いて、薬の副作用の研究を行っています。現時点で、約800万人の患者のリアルタイムの高品質な臨床情報のデータベースができています。 従来、薬の副作用は気付いた人が自主的に報告する「自発報告」によって、その有無を確認していました。MID-NETでは、薬の副作用が疑われたとき、先ほどの約800万人のデータベースから、その薬を服用した人のデータを抽出します。 そして、その人たちの薬剤服用前後に罹患した病名や検査結果などを調べ、「この薬を服用した後ではこの病名が多くなる」「検査ではこの数値が悪くなる」という顕著な違いの情報が得られれば、薬の副作用が明らかになるという仕組みです。 主治医や患者本人でさえ気付けなかった副作用を、データサイエンスによって発見することができるのです。 ──医療情報の二次利用と個人情報保護法の兼ね合いについて教えてください。 中島:もちろん、医療情報の二次利用は、個人情報保護法やその関連法制度に準拠して進めていかなければなりません。 最近では、散在している健診結果やカルテ等の個人の医療情報をつなぎ合わせ、データとしての価値を高めた後に匿名加工(※)し、医療分野での活用を促進することを目的とした次世代医療基盤法が施行されました。 (※)個人情報から個人を選別できる情報を削除したり、情報の粒度を粗くすることで、決して個人が特定できないような情報に加工すること。 個人情報保護法とともに、このような新しい法律と照らし合わせながら、医療情報の二次利用を慎重に、かつ積極的に推進していくべきだと考えています。 ──医療DXの推進にあたり、国民が理解しておくべきこと、国民に理解してほしいと思うことがあれば、教えてください。 中島:医療DXの推進は、10年先、20年先に日本が栄えていくか否かを決める重要なポイントです。その中でまず重要なのは医療DX基盤を構築することです。それに必要不可欠な部品の一つがマイナ保険証です。 今、私たちが受けている先進的な医療は、これまでに私たちの親世代、さらにその上の世代の人たちのデータを使って創り出されてきたものです。 私たちの子どもや孫の世代が、将来的に高いレベルの医療を受けるためには、今ある医療情報をどんどん使って医療を発展させていかなければなりません。他国の医療DXが進み医療レベルがどんどん向上していき、日本が医療後進国となってから後悔しても手遅れです。 医療DXは、個人情報保護法やそれに関する新しい法律に準拠して推進しています。「今」だけではなく「将来」の医療にも期待して、マイナ保険証を使っていただきたいと思っています。 関 瑶子(せき・ようこ) 早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。
関 瑶子