【レポート】豊かな木々の恵みから生まれた、岡山の「森の芸術祭」へ。
鏡野町の奥津渓は透明度の高い水が流れる、心が洗われるような場所だ。音楽、映画、アートと領域を横断しながら活動している立石従寛はそこに、巨大な鉱物のようなオブジェと5本のスピーカーを設置した。オブジェは近くにある岩場を3Dスキャンしたデータをもとに作られている。スピーカーからは山や海の生きものの声をもとにした音が流れている。川の上流には山の生きもの、下流には海の生きものの声を配した。 「『鏡野町』という地名から、鏡のように周囲を反射するオブジェを着想しました。周囲の美しい風景が映り込んで、見る人と風景が一体化するように感じられると思います」(立石)
スピーカーから流れる音に関わる生きもののうちの一つ、鯨は人間が聞いても心地よいと感じられる和音を奏でるのだそう。川のせせらぎと混ざり合ってさまざまな生きものが遠くから、また近くから呼びかける。
〈衆楽園〉でリクリット・ティラヴァニと協働した加納容子は真庭市の「勝山町並み保存地区」でも住民とコラボレーションして暖簾をつくっている。勝山は、江戸時代の街道沿いに栄えた町だ。木造の建物にはそれぞれの店で取り扱っているものなどをモチーフにした、個性的な暖簾が揺れる。その軒先に置かれた大小のベンチは建築家、妹島和世がデザインしたもの。妹島は真庭に本籍があり、この地には縁がある。
「どんとしたようなものが、とぼとぼ歩いて行くようなベンチを作りました。このベンチはこれからも作り続けてくれるそう。新しい形のコミッションになるのではないかと思います」(妹島)
ベンチの足は角度がついていて、ほんとうに歩き出しそうに見える。座面につけられた水はけのための溝は降る雨を思わせる。材料はヒノキ、真庭市の建具・家具製造事業者との協働で作られた。座って今も残る町並みを見ながら、人が昔ここを歩いて行ったんだな、といったことに思いを馳せる、そんなのんびりした時間を過ごせる。