【レポート】豊かな木々の恵みから生まれた、岡山の「森の芸術祭」へ。
「私の解釈ですが、坂本さんは『ブロックを積み上げるような時間の概念を取り払わないと、時間を理解することはできないのでは』といった意味のことをおっしゃっていました」(高谷)
時間も波もコントロールすることはできない。それは磯崎が設計した空間とも通じているようだ。 「磯崎さんは完成されていない空間を作っているのだと思います。いろいろなものとの関係性で成り立つ空間を作っている」(高谷) 磯崎の空間も他の要素を完全にコントロールするようなことは目指していないのだ。
高谷の作品と隣り合うようにしてインスタレーションされているAKI INOMATAの作品には《昨日の空を思い出す》というタイトルがつけられている。グラスの中の水に、特別に開発した3Dプリンタを用いて雲の形を再現するという作品だ。
「コロナ禍で空を見ることが増えて、時間の感覚が変わりました。そのときに今のこの瞬間を意識するようになって、昨日の雲はもう見ることができない、この先に見られるかどうかわからない、ということに気づいた」(AKI INOMATA)
空間全体を見渡すと、作品が設置されている部屋からは空が四角く切りとられて見える。その先には那岐山がそびえている。手のひらのグラスの中の雲は遠い空とつながっている。
津山市の「衆楽園」は津山藩二代藩主・森長継が京都の作庭師に造営させたとされる近世池泉廻遊式の庭園。よく手入れされた樹木の間に茶室が点在する。その中にある〈迎賓館〉でリクリット・ティラヴァニが展開している《無題 2024(水を求めて森を探す)》は、工芸と食を交差させるようなプロジェクトだ。
庭を望む広間に下がる暖簾は真庭市の染織家、加納容子とのコラボレーションによるもの。庭に生える木のシルエットが染め抜かれている。そこで津山市のbistro CACASHIのシェフ・平山智幹と、津山市創業のスーパーマーケットを展開するマルイが共同開発したお弁当がいただける。 「津山の真ん中にある会場に、森を持ち込みたいと思って加納さんに“森”をつくってもらいました。シルエットで木を感じてもらいたい」(リクリット・ティラヴァニ)